英国では相変わらず、ブレグジットと米大統領選の泥仕合が話題と関心の的とな っている。

だが、こうした懸念も市場の不安定さやポンド安もよそに、M&A市 場ではさまざまな業種で、日本 はじめ多くの国の企業による買収取引が次々と まとまっている。(ナイジェル・コリンズ/M&A専門弁護士)

中でも興味深いのが、中国の投資パターンだ。中国企業は、ますます洗練された 資産の買収に力を入れている。こうした動きは日本企業による投資にも直接的 な影響を及ぼしている。買収案件で中国企業と競合することが多くなっているの だ。中国の投資にかける意気込みは毛沢東の大躍進政策を思わせるが、そこには かつてのような貧困の影も溶鉱炉への関心もない。

中国は重工業から消費者志向の経済へと移行する中で、オートメーション化で世 界トップテン入りを狙うという一大計画を打ち出しており、急速に世界有数のロ ボット市場となりつつある。

ただ、同国のこうした投資意欲に先進諸国は一定の不安を抱いており、懸念の声 は日増しに高まっている。緊張の一因は、各国の主要資産を中国が一方的に所有 しようとしていることと、それに対する不安感だ。いまや中国は、各国経済の未 来の鍵となる資産に照準を合わせつつある。

8月9日付フィナンシャルタイムズによると、革新的エンジニアリング企業の取 得を目指す中国にとって、ドイツは最大の標的市場だ。中国の家電大手、美的集 団(ミデア)は独産業ロボット大手クーカ(KUKA)に45億ユーロでの買収案を 提示した。ただ、クーカはドイツのデジタル経済化に戦略的重要性を持つ分野の 優良企業だけに、ドイツは懸念を抱いている。欧州委員会のギュンター・エッテ ィンガー・デジタル経済・社会担当委員は、欧州企業に対抗買収案を提示するよ う呼び掛けたものの、名乗り出る企業はなかった。ミデアはいまやクーカの株式 約94%を取得しているが、独政府は手出しができない。政府が非欧州連合(EU)企業による国内企業の買収を阻止できるのは、エネルギー網などの戦略的イ ンフラや防衛企業が関わる場合に限られ、クーカはこれに当てはまらないから

米国では、中国によるいくつかの買収案件が対米外国投資委員会(CFIUS) の反対により阻止されている。オランダの家電大手ロイヤル・フィリップスは、 中国企業の率いるコンソーシアムへのLED部品および自動車照明機器事業の売 却を断念。また、中国・精華大学傘下の紫華集団は、ハードディスクドライブを 手掛ける米ウエスタンデジタルを38億ドルで買収する計画を撤回している。 日本企業も同様の投資を続けているが、こちらは昔から、買収した事業に利益を 再投資する配慮ある投資家との定評を得ている。だが、中国の投資をめぐる緊張 は今後、中国だけでなく買収に取り組むすべての外国企業に悪影響を及ぼすだろ う。外国企業による投資案件すべてが阻止されることはないが、合弁事業や提携 といった別の形の取引が生じる可能性はある。 注目すべき案件を挙げる。

  • 英国では、ニコンが映像機器のロボット制御ソリューションを提供するマー ク・ロバーツ・モーション・コントロール(MRMC)を買収する。取引額は 非公開。これにより、新規販売チャネルと新たな映像機器ソリューションの開 発が見込まれる。
  • キユーピーは欧州市場の開拓に向け、ポーランドの調味料メーカー、モッソ (Mosso)からマヨネーズなどを中心とした調味料の製造・販売事業を譲り受 ける。モッソはポーランド市場で約6%のシェアを持ち、ケチャップやマスタ ードなどの調味料も手掛ける。
  • 電通は急速に海外事業を拡大し続けている。同社の海外本社である電通イージ ス・ネットワーク(英国)はフランス企業2社を買収することで合意。ウェブ 情報分析会社ワサビ・アナリティクスと、独立系スポーツマーケティング大手 ケネオ(KENEO)を傘下に収める。

私生活では先週末、剣道の英国代表チームのために八段の先生を招きセミナーを 開催する企画に関わった。この先生は、日本で普通のサラリーマンをしながら剣 道八段に達したというから、なおさら感心する。剣道八段の審査は合格率1%未 満という世界でも最も難しい試験の1つだ。日本にいる600人以上の八段取得者の うち、サラリーマンは約1割にすぎない。圧倒的多数は警察出身で、残りはたい てい大学の講師だ。感心するなどというだけでは失礼なくらいだ。もしこの先生 の集中力と熱意のかけらでも体得できれば、私は今よりはるかに優れた人間や剣 道家、M&A弁護士になれるだろう。