【知財高判平成25年 10月30日(平25(行ケ)10069号)】

【要旨】 引用発明の認定は,本願発明との対比及び判断を誤りなくすることができるように行うことで足りるところ,本願発明が,ハサミを構成する単体が着脱可能であるか否か,開口部以外に機能的手段があるか否かをいずれも特定していない以上,これと対比すべき引用発明1の認定に当たっても,2枚の刃板(1)が着脱可能であることや,缶切部,栓抜部,ドライバー部等が設けられていることを認定する必要はない。

【キーワード】 引用発明の認定,認定者の裁量

事案の概要

1.事案の概要

本件は,拒絶審決に対する取消訴訟において,原告は,引用発明の認定に誤りがある等として,審決の取消しを求めたが,審決の引用発明の認定に誤りはない等として,請求が棄却された事例である。

2.引用例1(実開昭59-133172号公報)の記載

3.原審審決

審決は,引用発明1を「1枚の刃板(1)と1つの柄部(2)が一体に形成され,該柄部(2)は,人が握る握り部分と,刃板と該握り部分をつなぐ柄の部分とからなり,一方の刃板(1)の枢着軸が,他方の刃板(1)の軸受け孔(10)に支承され,枢着軸(7)と握り部分の間には,開口に対象をはさんで使用する殻割部(6)が設けられた調理用鋏」と認定し,同発明の調理用鋏が,①2枚の刃板から構成されること,②穀割部(6)について「木の実等の穀物を割る殻割部(6)」であること,③2枚の刃板(1)が着脱可能であることや,穀割部(6)に加えて缶切部(3),栓抜部(4),ドライバー部(5)及び剥離刃(11)が設けられていることを認定しなかった。

争点

引用例1から,穀割部(6)等の構成を認定せずに,引用発明を認定することは許されるか。

判旨

原告は,審決による引用発明1の認定は,同発明の調理用鋏が,①1枚の刃板(1)からなるものと誤認している点,②穀割部(6)について「開口に対象をはさんで使用する殻割部(6)」と認定している点,③2枚の刃板(1)が着脱可能であることや,穀割部(6)に加えて缶切部(3),栓抜部(4),ドライバー部(5)及び剥離刃(11)が設けられていることを看過している点において,誤りであると主張する。 しかしながら,引用発明1の対象が鋏である以上,引用例1(甲1)の記載内容や図面に照らしても,2枚の刃板によって構成されることは当然の前提であり,審決による引用発明1の認定もこれを前提としていることは,「一方の刃板(1)の枢着軸が,他方の刃板(1)の軸受け孔(10)に支承され」との認定に照らして明らかである。一方,「1枚の刃板(1)と1つの柄部(2)が一体に形成され」との部分は,鋏を構成する個々の刃板のそれぞれが柄部と一体に形成されていることを示すにすぎないと解されるから,これをもって,審決が,引用発明1の調理用鋏の刃板が1枚であると誤認したということは到底できない。 また,引用例1の第1図及び第2図に照らせば,引用発明1の殻割部(6)は,枢着軸(7)と握り部分との間で,2枚の刃板(1)に対向して形成された開口に該当し,この開口に対象となる木の実を挟んで握り部分を握って割るという使用態様であることを直ちに理解することができるから,審決が,殻割部(6)について,「開口に対象をはさんで使用する」と認定したことが誤りであるとはいえない。なお,殻割部(6)についての審決の上記認定と,原告の主張に沿う「木の実等の穀物を割る」との認定との間に,これに係る相違点1の容易想到性についての判断,すなわち,引用発明1の当該殻割部に代えて引用発明2の開口部を新しい機能部分にすることに容易に想到し得るか否かの判断を左右するほどの差異があるともいえない。 さらに,引用発明の認定は,本願発明との対比及び判断を誤りなくすることができるように行うことで足りるところ,本願発明が,ハサミを構成する単体が着脱可能であるか否か,開口部以外に機能的手段があるか否かをいずれも特定していない以上,これと対比すべき引用発明1の認定に当たっても,2枚の刃板(1)が着脱可能であることや,缶切部,栓抜部,ドライバー部等が設けられていることを認定する必要はないから,審決がこれらの点を認定しなかった点に誤りはない。 以上によれば,取消事由1に係る原告の主張は理由がない。

検討

本判決では,「引用発明の認定は,本願発明との対比及び判断を誤りなくすることができるように行うことで足りる」とされていることから,引用発明の認定には,認定者に一定の裁量があるものと考えられる。 一方,引用発明の認定を,認定者が,自由に行えるものとすると,認定者が恣意的に認定し得ることとなり,「発明」でないものを認定することになりかねない。上記裁判例において,「…容易に想到し得るか否かの判断を左右するほどの差異があるともいえない。」と述べられていることからも,進歩性の判断に影響を与える場合にまで,認定者が引用発明を自由に認定できないことが伺われる。