中国最高人民法院は、2018年12月12日に、『最高人民法院による知的財産権紛争の行為保全事件の審査における法律適用の若干問題に関する規定』(以下、『規定』という)を発表した。この規定は、2018年11月26日に最高人民法院審判委員会第1755回会議において可決し、2019年1月1日から施行される。

 『規定』には主に次の4点が含まれる。

 一、手続的規則:申立主体、管轄法院、申立書の記載事項、審査の流れ、復議、行為保全措置の執行等を含む。

 二、実体的規則:行為保全の必要性の考慮要素、担保、行為保全措置の効力の期間等を含む。

 三、行為保全の申立に誤りがあるとの認定及びそれを原因とした賠償請求訴訟、行為保全措置の解除等。

 四、異なる類型の保全処理の同時申立及び以前の司法解釈の処理等その他の問題。

 2001年、『知的財産権の貿易関連の側面に関する協定』における臨時措置に関する規定を履行するために、中国専利法、商標法と著作権法等において、訴訟前の知的財産権侵害の差止に関する規定が追加され、知的財産権の訴訟前の行為保全制度が確立した。同時に、最高人民法院は、『最高人民法院による訴訟前の専利権侵害行為差止の法律適用問題に関する若干規定』(2001年7月施行)と『最高人民法院による訴訟前の登録商標専用権侵害行為差止及び証拠保全の法律適用問題に関する解釈』(2002年1月施行)を発表した。

 2012年に改正した『中華人民共和国民事訴訟法』第100条と第101条には、訴訟中と訴訟前の行為保全に関する規定が追加され、行為保全制度が全ての民事分野に拡大された。改正した民事訴訟法を徹底的に実施するため、最高人民法院は、『最高人民法院による「中華人民共和国民事訴訟法」の適用に関する解釈』、『最高人民法院による人民法院の財産保全事件の処理における若干問題に関する規定』を制定し、更に行為保全制度を整備した。

 非全面的調査の不完全な統計によると、2013年から2017年の5年間で、中国全国の法院が受理した知的財産権の訴訟前の侵害差止事件は157件、訴訟中の侵害差止事件は75件で、裁定維持率はそれぞれ98.5%と64.8%であった。行為保全措置は、知的財産権の権利者が侵害行為を迅速に抑制し、直ちに司法救済を獲得することにおいて一定の役割を果たしている。

 中国では知的財産権に関する紛争が頻繁に起こっていることから、中国最高人民法院審判委員会会議で2017年7月17日に『訴訟中の財産保全の申立を起因とした損害責任紛争の管轄問題に関する回答』が採択された。『回答』では、当事者の訴訟を円滑にするため、訴訟中の財産保全の被申立人、利害関係者が、『中華人民共和国民事訴訟法』第105条の規定により提起した、訴訟中の財産保全申立を起因とする損害責任紛争訴訟は、訴訟中に財産保全の裁定を下した人民法院が管轄することが明確に示された。

 今回、知的財産権の訴訟前の行為保全の効力について十分検討し明確な期間を規定したことで、知的財産権の保全制度がより完備されたものとなった。   

最高人民法院による知的財産権紛争の行為保全事件の審査における法律適用の若干問題に関する規定  

法釈〔2018〕21号

知的財産権紛争の行為保全事件を正確に審査し、当事者の合法的な権益を即時的且つ効果的に保護するために、『中華人民共和国民事訴訟法』、『中華人民共和国専利法』、『中華人民共和国商標法』、『中華人民共和国著作権法』等の関連法律の規定に基づき、審判と実際の執行作業を考慮して、本規定を制定する。

第1条

本規定において知的財産権紛争とは、『民事案件事由規定』における知的財産権及び競争をめぐる紛争をいう。

第2条

知的財産権紛争の当事者が判決、裁定又は仲裁裁決の発効前に、民事訴訟法第100条、第101条の規定に基づき行為保全を申立てた場合、人民法院は受理しなければならない。

知的財産権許諾契約���被許諾者が訴訟前に知的財産権侵害行為の差止命令を申立てる場合、独占許諾契約の被許諾者は、単独で人民法院に申立をすることができる。排他的許諾契約の被許諾者は、権利者が申立てをしない状況で、単独で申立をすることができる。通常許諾契約の被許諾者は、権利者から明確に自己の名義で提訴する権限を付与されている場合、単独で申立をすることができる。

第3条

訴訟前の行為保全の申立は、被申立人の住所地にある知的財産権紛争の管轄権を有する人民法院、又は事件について管轄権を有する人民法院に対してしなければならない。

当事者が仲裁の約定をした場合、前項に規定された人民法院に行為保全を申立てなければならない。

第4条

人民法院に行為保全を申立てる場合、申立書とそれに対応する証拠を提出しなければならない。申立書には次の事項を明記しなければならない。

(一)申立人と被申立人の身分、送達住所、連絡先

(二)申立をする行為保全措置の内容及び期間

(三)被申立人の行為によって申立人の合法的権益が回復困難な損害を被る又は事件の裁決が執行困難となる等の損害を被ることの具体的な説明を含む、申立の根拠となる事実、理由

(四)行為保全のために提供する担保の財産情報又は資本信用証明書、又は担保の提供を必要としない理由

(五)その他の明記が必要な事項

第5条

人民法院は、行為保全措置を講じる裁定を下す前に、申立人と被申立人に尋問しなければならない。但し、状況が緊急の場合又は尋問が保全措置の執行に影響を及ぼす可能性がある等の場合はこの限りでない。

人民法院は、行為保全措置を講じる裁定を下した場合又は申立を却下する裁定を下した場合、申立人、被申立人に裁定書を送達しなければならない。被申立人に裁定書を送達することが保全措置を講じることに影響を及ぼす場合、人民法院は、保全措置を講じた後で即時に被申立人に裁定書を送達することができるが、遅くとも5日を超えてはならない。

当事者は、仲裁の過程において行為保全を申立てる場合、仲裁機関を通じて人民法院に申立書、仲裁事件受理通知書等の関連資料を提出しなければならない。人民法院は、行為保全措置を講じる裁定を下し又は申立を却下する裁定を下した場合、裁定書を当事者に送達するとともに、仲裁機関にも通知しなければならない。

第6条

次のいずれかの事情を有し、直ちに行為保全措置を講じなければ申立人の利益を十分害する場合、民事訴訟法第100条、第101条に規定する「緊急の状況」に該当すると認定しなければならない。

(一)申立人の営業秘密が不法に開示されようとしている

(二)申立人の公表権、プライバシー権等の人身権が侵害されようとしている

(三)係争知的財産権が不法に処分されようとしている

(四)申立人の知的財産権が展示販売会等の時間的制約がある場所で侵害されている又は侵害されようとしている

(五)時間的制約がある人気番組が侵害されている又は侵害されようとしている

(六)速やかに行為保全措置を講じる必要のあるその他の状況

第7条

人民法院は行為保全の申立を審査するとき、次の要素を総合的に考慮しなければならない。

(一)申立人の請求に、保護を請求する知的財産権の効力が安定しているかどうか等を含む、事実の基礎と法的根拠があるかどうか

(二)行為保全措置を講じなければ、申立人の合法的権益に回復困難な損害が生じる又は事件の裁決が執行困難となる等の損害が生じるかどうか

(三)行為保全措置を講じないことで申立人が被る損害が、行為保全措置を講じたことで被申立人が被る損害を超えるかどうか

(四)行為保全措置を講じることが社会の公共利益を害するかどうか

(五)考慮すべきその他の要素

第8条

人民法院は、申立人が保護を請求する知的財産権の効力の安定性を審査し判断するとき、次の要素を総合的に考慮しなければならない。

(一)その権利の類型又は属性

(二)その権利が実体審査を経たかどうか

(三)その権利が無効宣告を受けたか又は取消手続中であるかどうか、及び無効宣告を受ける又は取消される可能性があるかどうか

(四)その権利について帰属紛争が存在するかどうか

(五)その権利の効力を不安定にさせる可能性のあるその他の要素

第9条

申立人は、実用新案権又は意匠権を根拠として行為保全を申立てた場合、国務院専利行政部門が作成した検索報告書、専利権評価報告又は専利復審委員会による当該専利権の有効を維持する旨の決定書を提出しなければならない。申立人が正当な理由なく提出を拒否した場合、人民法院は、その申立を却下する裁定を下さなければならない。

第10条

知的財産権及び不正競争紛争の行為保全事件において、次のいずれかの事情に該当する場合、民事訴訟法第101条に規定する「回復困難な損害」に当たると認定しなければならない。

(一)被申立人の行為は、申立人が享有する信用又は公表権、プライバシー権等の人身的性質の権利を侵害し且つ回復困難な損害を与える

(二)被申立人の行為は、制御不能な侵害行為につながり且つ申立人の損害を著しく増大させる

(三)被申立人の侵害行為は、申立人の関連市場の占有率を明らかに減少させる

(四)申立人にその他の回復困難な損害を与える

第11条

申立人は行為保全を申立てる場合、法律により担保を提供しなければならない。

申立人が提供する担保額は、差止命令を受ける侵害行為に関わる商品の販売収益、保管費用等の合理な損失を含む、被申立人が行為保全措置の執行によって被る損失に相当するものでなければならない。

行為保全措置の執行過程において、被申立人が申立人の担保額を超える損失を被る可能性がある場合、人民法院は申立人に対し相応の担保を追加するよう命じることができる。申立人が追加を拒んだ場合、保全措置を解除する又は一部解除する裁定を下すことができる。

第12条

人民法院が講じる行為保全措置は、通常、被申立人が担保を提供することによって解除されることはないが、申立人の同意がある場合はこの限りでない。

第13条

人民法院は行為保全措置を講じる裁定を下す場合、申立人の請求又は事件の具体的状況等の要素に応じて保全措置の期間を合理的に確定しなければならない。

知的財産権の侵害行為差止裁定の効力は、通常、事件の判決が発効するまで維持しなければならない。

人民法院は、申立人の請求、担保の追加等の事情に応じて、保全措置を継続する裁定を下すことができる。申立人は、保全措置の継続を請求する場合、期間満了前7日以内に提出しなければならない。

第14条

当事者が行為保全裁定を不服として復議を請求した場合、人民法院は復議請求を受理してから10日以内に審査し裁定を下さなければならない。

第15条

人民法院が行為保全を講じる方法及び措置は、執行手続きの関連規定したがって処理する。

第16条

次のいずれかの事情に該当する場合、民事訴訟法第105条に規定する「申立に誤りがある」に該当すると認定しなければならない。

(一)申立人が行為保全措置を講じてから30日以内に法律により訴訟を提起し又は仲裁の申立てをしなかった

(二)行為保全措置は、保護を請求する知的財産権が無効宣告された等の理由で、最初から不当であった

(三)被申立人に対する知的財産権侵害又は不正競争の差止命令を申立てたが、発効した判決では侵害又は不正競争にあたらないと認定された

(四)申立に誤りがあることに該当するその他の事情

第17条

当事者が行為保全措置の解除の申立をし、人民法院が申立を受理して審査した結果、『最高人民法院による[中華人民共和国民事訴訟法]の適用に関する解釈』第166条に規定された事情に合致すると判断した場合は、5日以内に解除する裁定を下さなければならない。

申立人が行為保全の申立てを取下げ又は行為保全措置の解除を申立てたとしても、それによって民事訴訟法第105条に規定された賠償責任は免除されない。

第18条

被申立人が民事訴訟法第105条の規定により提起した賠償請求訴訟についてて、申立人が訴訟前の行為保全申立をした後に訴訟を提起しなかった又は当事者が仲裁の約定した場合、保全措置を講じた人民法院が管轄する。申立人が既に訴訟を提起した場合は、それを受理した人民法院が管轄する。

第19条

申立人が行為保全、財産保全又は証拠保全を同時に申立てた場合、人民法院は、法律により異なる類型の保全申立について個別に条件を満たしているかを審査し、裁定を下さなければならない。

被申立人が財産の移転、証拠消滅等の行為を実行して、保全の目的が実現できなくなることを避けるため、人民法院は事件の具体的な事情に応じて、異なる類型の保全措置の執行順序を決定することができる。

第20条

申立人は、行為保全を申立てる場合、『訴訟費用納付弁法』の行為保全措置申立に関する規定に従って申立手数料を納付しなければならない。

第21条

本規定は2019年1月1日から施行する。最高人民法院が以前に発表した関連の司法解釈が本規定と一致しない場合は、本規定を基準とする。