2014年5月から、中国の『商標法』では音が商標登録の対象に加えられた。『商標法』の規定によると、自然人、法人又はその他の組織の商品を他人の商品と区別することができる文字、図形、アルファベット、数字、立体的形状、色の組合せ及び音等、並びにこれらの要素の組合せを含む標章はすべて商標として登録出願することができる。

規定が発表された後、騰訊科技(深圳)有限公司(以下「騰訊公司」という)は、QQ通知音の「ディディディディディディ」を商標として登録出願したが拒絶された。そのため、騰訊は商標評審委員会を被告として法院に訴訟を提起した。最近、北京知識産権法院は本件に対して公開審判を行った。法院は、QQ通知音は全体的にサービスの出所を表示する機能を有し、顕著性を有するため、商標として登録することができると判断し、商標評審委員会の決定を取消して、被告である商標評審委員会に改めて決定を下すよう命じる判決を下した。

騰訊公司は2014年5月4日に商標登録出願をし、2015年8月24日に拒絶査定され、2015年9月6日に復審(拒絶査定不服審判)を請求した。2016年5月5日に復審請求が却下されたことで、2016年6月28日に騰訊公司は、法律により、訴訟に係る決定の取消しと商標評審委員会に改めて決定を下すよう命じることを求めて北京知識産権法院に訴訟を提起した。法院が2018年5月7日に判決を下すまで4年もかかった。

裁判で、商標評審委員会は、「QQ通知音は比較的シンプルで、独創性に欠けており、騰訊公司が提出した証拠は、QQソフトに知名度があることしか証明できず、QQ通知音が顕著性のある特徴を有することを証明するに足るものでなく、QQ通知音はサービスの出所を区別する機能を果たしていないため、商標として登録することができない」と主張した。

一方、騰訊公司は、「QQ通知音は、鮮明で簡潔、顕著であり、音商標が備えるべき顕著性を有している。QQ通知音は長期にわたり、大量に、広く使用されたことで、ユーザーは「ディディディディディディ」の音を聞けば、QQソフトのメッセージ通知音だと分かる。また、外国で既に登録されている音商標の音の長さはどれも比較的短く、大半が3秒未満、音はシンプルで、声も入っていない。したがって、QQ通知音も商標として登録が認められるべきである」と主張した。

北京知識産権法院は、審理した結果、「音商標が顕著性を有するかどうかは、伝統的商標の顕著性の有無に対する基本的な判断原理、基準及び規則に従わなければならないことに加え、音商標の音の長さ及びその構成の複雑さなどの要素を組み合わせ、全体的な聴覚感知で、識別的な役割を果たすことができる特定のリズム、メロディまたは音の効果を有するかどうかを総合的に考慮して、商品またはサービスの出所を区別する機能を果すことができるかどうかを判断しなければならない。QQ通知音は単一の音要素である「ディ」の音のみで構成されるが、全体的な聴覚感知では、比較的明快で、連続的で、テンポが短いという効果を形成しており、特定のリズム、音の効果を有しているため、音全体は比較的単純なものであるとの状況に属さない。

本件の係争商標は同一の音要素である「ディ」の音のみで構成されており、全体の持続時間は比較的短いが、係争商標は全体として6つの「ディ」を含んでおり、どの「ディ」の音も音程が高めで、「ディ」の音と音の間の間隔は短く連続的な状態を呈している。係争商標は全体的な聴覚感知において、比較的明快で、連続的で、テンポが短く、特定のリズム、音の効果を有し、生活の中でよくあるものではないため、訴訟に係る決定で認定されたような音全体は比較的単純なものであるとの状況に属さない。また、係争商標の音は、QQソフトの作動中に新しいメッセージを受信した時の通知音であるが、当該通知音は人為的に設定するものであり、ソフトウェアの作動過程で必然的にもたらされた結果ではないため、機能的な音に属さない。

また、音商標が顕著性を獲得するためには長期にわたり使用される必要がある。QQソフトは1999年から中国のインターネットで使用が開始され、QQ通知音は使用当初、関連公衆の聴覚に強い衝撃を与えたことで、関連公衆に容易に感知され、記憶されるようになった」とした。

このほか、騰訊公司はアイリサーチ社(iResearch)が発表した『中国インスタントメッセージ研究報告書』などの産業研究報告書、騰訊公司の2004~2015年の会社年次報告書、QQソフトは、同時オンラインユーザー数が2.102億人に達し、「一つのインスタントメッセージプラットフォーム上での同時オンラインユーザー数最多」のギネス世界記録を初めて達成した中国語のインスタントメッセージツールであること、テレビドラマ『第一次的親密接触』(初めての親密な触れ合い)の中でQQソフトが使用されている関連内容の証拠を提出した。法院は、総合的に考慮した後、「係争商標が付されたQQソフトは、持続的に使用された時間が長く、使用範囲が広く、市場占有率が高く、ユーザー群が関わる分野が多岐にわたっており、知名度が上がるに伴って、QQ通知音は、既にQQソフトとの間で互いに代名詞となる関係が形成されており、QQ通知音は既にインスタントメッセージ分野で比較的高い知名度を確立し、識別力はより増大したため、係争商標の使用を指定する「情報伝送」のサービスにおいて、商標が有するべきサービス出所を表示する機能を既に具備している。」との見解を示した。

また、法院は、「インターネット業界において、付加サービスの提供、関連商品の開発、技術製品のアップグレートなどのビジネスモデルにより商業目的を実現することは、インターネット企業の一般的な選択である。騰訊公司が提出した152の国家図書館での検索文献、Useit知識ベースにある『1999年から2015年にQQは如何に進化してきたか』という文章などの証拠の組み合わせから、QQソフトが市場に投入されてから係争商標の出願日までにおいて、QQソフトはインターネットチャットルーム、電子メール、オンライングリーティングカードの転送、デジタルファイルの転送などのサービスを次々と追加して、総合的なインターネットメッセージプラットフォームに発展してきたと認定できる。前記サービスは係争商標の音を使用していないが、前記サービスと「情報伝送」は何れもQQソフトが総合的なインタネットメッセージプラットフォームとして提供するサービスであり、しかも係争商標の音は既にQQソフト及びその提供するサービスと対応関係を形成しているため、係争商標の前記サービスにおける使用も顕著性を有する。

さらに、係争商標が登録できるサービス範囲は係争商標自体の知名度、影響力に相応しなければならない。テレビジョン放送、ニュースサービスと「情報伝送」は何れも国際分類第38類の「電気通信」分野に属し、「類似商品・役務区分表」第38類の注釈には「第38類には、主として、少なくとも二人の間で感覚を手段として通信するサービスを含む」ことが記載されている。前記サービスは機能、用途、サービス項目などの点において比較的緊密な関係が存在している。しかも、インターネット企業間の競争は、実質的にはプラットフォーム間の競争である。そのため、インターネット企業は自社のプラットフォームの製品構造のイノベーションを推進し、サービス内容を向上させる。騰訊公司にとって、QQソフトのインスタントメッセージサービスプラットフォームを通して、テレビジョン放送、ニュースサービスを提供することも、実際の発展モデルなのである。また、上記のQQソフトの知名度、QQ商標の知名度、係争商標の知名度及び相互間の対応関係なのどの分析を組み合わせから、係争商標のテレビジョン放送、ニュースサービスへの使用は、商標が有すべきサービスの出所表示の機能を有すると認定できる。」とした。

つまり、北京知識産権法院は、係争商標の音は全体的に、その指定役務においてサービスの出所を表示する機能を既に有しており、被告人である商標評審委員会がその商標について顕著性を有しないと認定したことは、事実及び法的根拠に欠けていると判断し、これにより、商標評審委員会のなした訴訟に係る決定を取消し、商標評審委員会に改めて審査決定を下すよう命じる判決を下した。