【令和4年8月9日判決(東京地裁 令和3年(ワ)9317号)】

【キーワード】 不正競争防止法、営業秘密、著作権法、著作物

【事案の概要】

原告の従業員であって後に被告会社に移籍したBは、原告在籍中に本件データを作成した。Bは被告会社に移籍後、被告ら作成データを作成し、被告Aに送信した。

原告は、本件データは営業秘密及び著作物に該当するとして、被告A及び被告会社に対し、①本件データに係る原告の著作権を(複製権又は翻案権)を侵害して被告ら作成データを作成し、②原告の営業秘密である本件データを不正の手段により取得して原告の情報を持ち出したと主張し、以上の各行為が、被告Aに対しては不法行為又は債務不履行(原告と被告Aとの間で締結された合意違反)を構成し、被告会社に対しては共同不法行為を構成するとして、損害賠償を求めた。

【争点】

⑴ 本件データが営業秘密に当たるか

⑵ 本件データが著作物に当たるか

【判決(一部抜粋)】

※下線は筆者が付した。

第1・第2・第3・第4の1 省略

2 争点1(営業秘密の不正取得の成否)について

⑴ 争点1-1(「営業秘密」該当性)について

ア 原告は、本件データが不正競争防止法2条6項に規定する「営業秘密」に該当すると主張して、被告らが不正の手段でこれを取得し、使用した旨主張する。そこで検討すると、前記認定事実によれば、本件データの内容は、ウェブで公開されている記事又は情報を確認しながら、平成29年前後の公知の情報を寄せ集めたものにすぎず、AIに関する初歩的な情報にすぎないものであり、そもそも秘密情報として管理されるべきものではなかったことが認められる。そして、本件データは、シェアポイントにおける「07.Team」フォルダ内の「AI」フォルダにおいて、「chatbot 要件_追加_20171002.pptx」というファイル名で格納されていたところ、Bは、そもそも「AI」フォルダにアクセス権限や閲覧制限を個別に設定せず、本件データにも個別のパスワードを設定しなかったため、原告の役職員の全員が本件データを閲覧でき、しかも、「07.Team」フォルダに保存された資料に関するルール(ただし、下位フォルダを作成したり削除したりするにはIT担当の従業員への依頼を要するというルールを除く。)は格別存在しなかったことが認められる。のみならず、本件データには、「機密情報」、「confidential」という記載がないため、客観的にみて、本件データにアクセスした者において当該情報が秘密情報であることを認識できなかったことが認められる。これらの事情の下においては、本件データは、秘密として管理されていた情報とはいえず、営業秘密に該当するものと認めることはできない。

イ これに対し、原告は、フォルダ構成図(甲16)を提出した上で、本件データが格納されたフォルダへのアクセス及び変更の権限はBを含むIT担当者3名のみが有し、アクセス及び参照の権限は経営会議の構成員のみが有していたのであり、情報管理規程(甲17)等においても、秘密情報の漏洩を禁じていたなどと主張する。しかしながら、上記フォルダ構成図は、平成30年2月27日に作成されたものであり、Bが被告Aに対して被告ら作成データを送信した平成30年1月22日よりも後に作成されたものであることからすると、「AI」フォルダにアクセス権限や閲覧制限を個別に設定しなかったとするBの陳述の信用性を直ちに覆すものとはいえない。仮に、原告の主張を前提としても、前記認定事実⑷ア及びイの原告の在籍状況等を踏まえると、相当数の者が本件データにアクセスすることができたと認められる上、そもそも、本件データには個別のパスワードが設定されず、しかも、「機密情報」、「confidential」という記載もなかったのであるから、客観的にみて、本件データの内容に照らしても、本件データにアクセスした者において当該情報が秘密情報であることを認識できなかったことが認められる。のみならず、原告の主張を前提としても、原告が指摘する上記情報管理規程によれば、「電子データの秘密情報は、サーバに保存し、アクセス権者以外の者がアクセスできないようにフォルダ・ファイルにパスワードによるアクセス制限をかけなければならない。」(9条3項)と規定されていたにもかかわらず、本件データには、そもそもパスワードが設定されていなかったことが認められるのであるから、上記情報管理規程を前提としても、本件データが原告において秘密として管理されている情報であると認められないことは、明らかである。その他に、原告の主張及び証拠を改めて検討しても、本件データの性質等に鑑みると、本件データはそもそも秘密情報に当たらずそのように管理されていなかったと認めるのが相当であり、上記判断を左右するに至らない。したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。

⑵ 小括

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件データはそもそも営業秘密に該当するものとはいえず、営業秘密の不正取得を理由とする原告の請求は、理由がない。

3 争点2(著作権侵害の成否)について

⑴ 争点2-1(「複製又は翻案」該当性)について

ア 原告は、本件データにつき、その個別の表現自体については創作的表現がないことを認めるものの、表としての体系、配列に創作性があるものと主張する(令和3年10月28日付け書面による準備手続調書参照)。

イ そこで検討すると、本件データ(別紙本件データ目録記載のファイルのうちスライド2枚目ないし8枚目の部分)によれば、本件データは、①表形式で整理した上で色分けをしたり、「優先度」を表示したり、それぞれの内容を数行程度で説明したり、②複数のパソコン画面のイメージを立体的に重ね合わせるデザインを採用した上で、2画面間の相違を示すことにより特に強調したい内容を示すとともに、表示に関する説明を黄色の目立つ吹き出し表示により示したり、③パソコン上の操作画面を示して、その重要部分を赤点線で囲んで目立たせたり、④ユーザ、インターフェース等の配置や各構成相互の連携やデータのやりとりの双方性を示す矢印を色付きで示したりするものであることが認められる。上記認定事実によれば、本件データの表としての体系、配列は、情報を分かりやすく整理してこれを伝えるために、一般的によく使用されるものであるにすぎず、そこに一定の工夫がされていたとしても、表現それ自体ではないアイデア又はありふれた表現にすぎないというべきであり、創作性を認めることはできない。

ウ したがって、本件データには、そもそも著作物性があるものと認めることはできず、被告ら作成データの作成は、本件データの複製又は翻案に該当するものとはいえない。

⑵ 小括

 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件データに係る著作権侵害を理由とする原告の請求は、理由がない。

【解説】

  1. 営業秘密について

(1)総論

 不正競争防止法(以下「不競法」という。)は、同法2条1項4号乃至10号により営業秘密に係る一定の行為を「不正競争」と定め、差止請求、損害賠償請求の根拠とすることで、営業秘密につき一定の保護を図っている。

 ただし、上記法律上の保護は限定的であり、かつ後述のとおりある情報が営業秘密に当たると認められるためには一定の要件を満たす必要がある。したがって、特定の情報の保護を図る際は、当該情報を開示する相手方と秘密保持に関する契約を締結することが一般的である。

(2)営業秘密の要件

 不競法にいう営業秘密とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」(不競法2条6項)をいう。すなわち、営業秘密に該当するためには、①秘密管理性(「秘密として管理されている」こと)、②有用性(「事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」であること)、③非公知性(「公然と知られていない」こと)の三要件を満たすことが必要である。

 これらの要件に関する指針として、「営業秘密管理指針」(平成15年1月30日(最終改定:平成31年1月)経済産業省。以下「管理指針」という。)がある。同指針は、「法的拘束力を持つものではない」[1]ものの、「不正競争防止法によって差止め等の法的保護を受けるために必要となる最低限の水準の対策を示すもの」[2]であり、上記要件を判断する上で参考になる。

 まず①秘密管理性について、管理指針は、その趣旨は「企業が秘密として管理しようとする対象(情報の範囲)が従業員等に対して明確化されることによって、従業員等の予見可能性、ひいては、経済活動の安定性を確保することにある」[3]とし、秘密管理性が認められるためには「営業秘密保有企業の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある。具体的に必要な秘密管理措置の内容・程度は、企業の規模、業態、従業員の職務、情報の性質その他の事情の如何によって異なるものであり、企業における営業秘密の管理単位(中略)における従業員がそれを一般的に、かつ容易に認識できる程度のものである必要がある」[4]としている。

 また、有用性に関して、管理指針は、「その情報が客観的にみて、事業活動にとって有用であることが必要である」とし、「企業の反社会的な行為などの公序良俗に反する内容の情報は、『有用性』が認められない」としている[5]

 最後に非公知性については、「一般的に知られておらず、又は容易に知ることができないことが必要である」としている[6]

(3)本件データについて

 本判決は、本件データについて「秘密として管理されていた情報とはいえず」秘密情報に該当しないと判断しており、上記要件のうち①秘密管理性が否定されていることがわかる。本判決はその理由として、⑴本件データの内容がそもそも営業秘密として保護されるべきものでないこと、⑵原告役職員は全員本件データを閲覧でき、同データが保存されていたフォルダについても、同フォルダ内の資料に関するルールは格別存在しなかったこと、⑶本件データには「機密情報」、「confidential」等の記載がなく、本件データにアクセスした者は客観的に秘密情報であることを認識できなかったことを挙げている。

 これを管理指針に沿って見てみると、まず⑴は「情報の性質」であり、必要な管理措置の内容・程度を判断するための考慮要素であると考えられる。本件データは情報の性質として「公知の情報を寄せ集めたもの」、「初歩的な情報」に過ぎなかったため、通常秘密として保護するものとは考えがたい。したがって、本件データについて秘密管理性を肯定するには、高度の秘密管理措置が取られる必要がある。⑵、⑶は実際に取られていた(又は取られていなかった)秘密管理措置と考えられるが、これらの措置が上記のように高度なものとは認められない。本判決は、以上を踏まえて、原告の「秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保され」ていたとは言えないと判断し、本件データの秘密管理性を否定したと考えることが可能であり、したがって、本判決は管理指針に概ね沿ったものと言える。

2. 著作物性について

 表現物につき著作権が生じるためには、それが著作物、すなわち「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)と言える必要がある。このうち、「創作的に表現したもの」というためには、表現物に何らかの個性が表現されていることが必要であり、ありふれた表現はこれを満たさない。また「表現」というためには、思想・感情そのものではなく、それを具体的に表現したものであることが必要であり、思想・感情そのものは「アイデア」として表現に該当しない。

 本判決は上記を前提に、本件データはアイデアに過ぎないか、仮に表現と言えるとしてもありふれた表現に過ぎないとして、本件データの著作物性を否定している