民事訴訟法第538条第1項には「争いがある法律関係について、重大な損害の発生を防止し又は急迫の危険を回避するため、又はその他類似する情況がある場合、必要があれば仮の地位を定める仮処分を申立てることができる」と規定している。また、知的財産案件審理法第22条第2項には「仮の地位を定める仮処分を申立てるとき、申立人はその争いがある法律関係について、重大な損害の発生を防止し又は急迫の危険を回避し又はその他類似する情況を有するために必要のある事実について釈明しなければならない。釈明に不足がある場合、裁判所はその申立を却下する」と明確に規定している。しかしながら、法律条文にいう「重大な損害」及び「急迫の危険」は実際には法律の不確定概念に属するため、その正確な意味については、裁判所が個別の事件内容に基づき当事者間の利益を衡量し、具体的にこれを認定しなければならない。

 麦奇数位股份公司(以下「麦奇数位」という)と科見文教資訊股份公司(以下「科見」という)はともに台湾において有名な英語教育機構であり、それぞれ生徒や客層を有していて言語教育市場ではどちらも大型企業に属している。そのうち、麦奇数位のTutorABCは、教室に来なくても自宅に居ながら講師との双方向レッスンを受けられることを売りとした有名なオンライン英語教育ブランドであり、図1のシリーズ商標を登録している。一方、科見はオンライン教育のビジネスを展開する過程で、図2のシリーズ商標を登録し、それをウェブサイトのページ及びソーシャルメディアで使用した。そのため、麦奇数位と科見はオンライン教育分野で直接競争関係が生じ、麦奇数位は七年前に科見に対して民事侵害訴訟を提起し、訴訟は現在も続いている。訴訟中に麦奇数位は科見の図2の商標に対する使用差し止めを求めて、仮の地位を定める仮処分を申立てた。知的財産裁判所が2018年1月に当該仮処分の申立を認める裁定を下したため、科見は当該裁決を不服として最高裁判所に抗告した。

 知的財産裁判所は審理(本件の場合は差戻し審)の際、争いがある法律関係の存否、申立人の勝訴の可能性、補填することのできない申立人の損害及びその程度、相手方の損害、申立人の急迫な危険、双方の利益と公共の利益を衡量するなどの要素を順に審理して裁決を下した。

 先ず、争いがある法律関係について、麦奇数位と科見との間には確かにそれが存在する。争いがある法律関係とは、持続性を有し且つ民事訴訟に適した対象に争い又は被侵害などの情況が生じることをいう。 

次に、申立人の勝訴の可能性について、本件の申立人である麦奇数位は1審と2審のいずれも勝訴しており、また、科見の商標の取消に関する行政訴訟において、最高行政裁判所が科見の商標は麦奇数位の商標(図1)に類似すると認定したことから、麦奇数位が本件の商標権侵害及び妨害排除請求訴訟で将来勝訴となる可能性がある。

 更に、申立人の損害とその程度について、知的財産裁判所は、「商標法の保護対象は長期使用と宣伝広告により蓄積された「グッドウィル(信用)」であり、商標の識別機能、出所表示機能、品質保証機能及び宣伝広告機能が破壊される又はその可能性がある場合、或いは消費者の意志決定に影響を及ぼし、又は消費者のグッドウィル(信用)に対する認識及び結びつきの関係に影響を及ぼす(即ち混同誤認の虞)場合、商標権者は損害を被ることになる。換言すると、科見が侵害標識を使用し続けた場合、麦奇数位が長期間、多額の資金及び広告投資を費やして確立したブランドの競争優位性に影響を与え、麦奇数位の「商標の識別力」、「ブランド価値/グッドウィル(信用)」は科見の使用によってその価値が低減するのは必至である。これら麦奇数位の被る無形の損害は、いずれも数値化し難く、事後に金銭で補填することができない。」と指摘した。

 また、相手方の損害について、知的財産裁判所は、「科見は実際に麦奇数位の商標とは関係のない他の所有する商標を使用できることから、科見に対する仮処分は科見に重大な損害を与えることはない。」とし、また、急迫な危険については、「科見は図2の商標の登録取消審判で今後も当該被疑侵害標識を引き続き使用すると明言したことがある。これは、科見が当該被疑侵害標識を引き続き使用する可能性が極めて高いことを示しており、麦奇数位の図1の商標には確かに侵害を受ける急迫な危険がある。」と判断した。

 最後に、利益衡量については、前述の分析のとおり、科見の持続使用による麦奇数位の損害は、科見の損害よりも大きい。しかも、混同誤認の虞もあり、これは公益に大きな影響を与える。したがって、知的財産裁判所は、麦奇数位の申立には理由があると判断して、科見の図2の標識の継続的使用を認めないとする仮処分の裁定を下した。

 最高裁判所は抗告の審理において、「麦奇数位が本件の商標権侵害及び妨害排除請求訴訟で将来勝訴となる可能性があり、科見が侵害標識を使用し続けると、麦奇数位が時間、広告及び金銭を費やして確立したブランドの競争優位性に影響を与え、麦奇数位の「商標の識別力」、「ブランドの価値/グッドウィル(信用)」の価値が低減するのは必至であり、事後に金銭で補填できず且つ数値化できない重大な損害を被ることになる。科見が使用の継続を明言したため麦奇数位には侵害を受ける急迫な危険があり、また、科見が持続的に侵害標識を使用し続けると混同誤認を生じる虞があるため、公益に重大な影響を与える。」と強調した。最高裁判所は上述の要因を考慮した上で、科見の抗告には理由がないと判断して抗告棄却の裁定を下した。 

本件の申立てにおいて、知的財産裁判所と最高裁判所が行った、民事訴訟法と知的財産案件審理法における「重大な損害」及び「急迫な危険」の要件に対する充分且つ完全な個別の事件分析は、今後、同様の商標事件における仮の地位を定める仮処分の申立に対しての参考になると思われる。