中東地域における商事代理法 

多くの中東諸国は、法令および実務により現地代理店を保護する商事代理法制度を設けてい る。典型的な保護体制として(1)商事代理権の自国民のみへの付与(2)代理店登録制度 (3)法定独占権および(4)解約時および期間満了時における、外国企業による自由な権 利行使の制限などがある。

湾岸協力会議諸国(Gulf Cooperation Council、以下「GCC」という。)のうち、オマーン、 クウェート、カタール 3 カ国は、近年商事代理法を改正した。国によって改正点は多少異な るが、主に競争保護法または世界貿易機関(World Trade Organization、以下「WTO」とい う。)の方針に沿った改正といえる。

オマーン

オマーン・スルタン国は、2014 年 7 月 21 日付の 2014 年第 34 号法令の制定(以下、「2014 年改正法」という。)により、1977 年第法令 26 号の商事代理法(以下「旧商事代理法」と いう。)を大きく改正した。旧商事代理法は、前記のような典型的な代理店保護制度といえ るが、1996 年の法改正によって代理店の法定独占権を廃止したことにより、外国企業の参 入要件が比較的緩和された。

2014 年改正法により、さらに以下4点が大きく改正された。

  • 登録代理店の補償請求権に関する条項が削除された。法令による解約補償請求権が廃止 され、代理店契約の当事者間で自由に解約や更新について規定・合意することが可能と なった。しかし、引き続き代理店は、委託者に対し、契約違反などによる補償請求をす ることができる。
  • 登録代理店の並行輸入品に対するコミッション請求権が廃止された。2014 年改正法は、 外国委託者または第三者によるその製品・サービスを提供することへの制限を廃止した。 登録代理店は、引き続き商品に対する製造者保証やアフターサービスの義務を負うが、 本改正により、他の輸入業者による製品の販売およびサービスの提供に対するコミッシ ョン請求権を失った。
  • 商工産業省大臣に付与されていた輸入差止権が廃止された。2014 年改正法前まで、商 工産業省大臣は、委託者と代理店の間で代理店契約に関する争いがある場合または委託 者が正当な理由なしに解約しようとした場合に、対象商品の輸入を差止める権限を有した。(本改正によりかかる権限は喪失したが、実質的に WTO 条約加入以後は、かかる 権限の行使は不能であったため、特に実務には影響がない。)
  • 閣僚委員会(内閣と同程度の権限を有する)に、独占防止に関する権限を与えた。閣 僚委員会に、公共消費者保護局(Public Authority for Customer Protection)の助言により、 市場価格や需要供給に悪影響を与える特定の商品・サービスの独占を防ぐ役割が与えら れた。

 クウェート 

クウェート国の商事代理法の制定は、50 年以上前に遡る。1964 年法令第 36 号(以下「旧商 事代理法」という)は、中東地域最古の商事代理法の1つである。クウェート国の商事代理 店関連法の特徴は、商事代理店制度における委託者と代理店の関係が主に商法上に規定され ていることである。

したがって、2016 年法令第 13 号(以下「新商事代理法」という)が 2016 年 3 月 13 日に制 定されたが、新商事代理法の規定は、以下のような代理店登録制度に関するものにとどまる。

  • 登録代理店の並行輸入品に対する輸入差止請求権が廃止された。改正前、登録代理店は、 税関および裁判所に対し、並行輸入品の輸入差止めを請求することができた。新商事代 理法により、独占的な登録代理店が存在する場合であっても、いかなる現地法人も商品 およびサービスの輸入が可能となった。
  • 登録代理店のみが新商事代理法により保護される。新商事代理法上では、商工産業省に 登録済の代理店のみが商事代理店としての権利を有する。
  • 登録代理店への独占権付与は任意となった。旧商事代理法上には、特段の独占権に関す る規定がなかった。とはいえ実務上では、商工産業省は、代理店契約書の内容を問わず、 代理店の登録は1件のみとし、複数の代理店の任命・登録は認めていなかった。新商事 代理法は、複数の代理店の任命を認める旨を明記しているが、独占的な代理店契約も禁 止されていない。
  • フランチャイズ契約による業務委託も登録対象となった。本改正により、実務上では改 正前も使用されていたフランチャイズ形態も、法令上に規定された。同様に、販売代理 店(ディーラー)も商事代理法の登録対象となった。
  • 依然として、解約時の補償請求権に関する規定がない。新商事代理法は、旧商事代理法 と同様に、一方的に解約された場合の補償請求に関する規定がない。ただし、代理店は クウェート国商法(旧商事代理法後に制定)に基づく補償請求権を有する。未登録の代 理店にも解約時の補償請求権が認められるかを判断するには、クウェート国裁判所の判 例を待つ必要がある。

 カタール 

カタールでは、商事代理法として、2002 年法令第 8 号(以下「旧商事代理法」という。) が制定された。その後、2016 年 4 月に 2016 年法令第 2 号により改正された。

本改正により、以下の 4 つの大きな改正が導入された。

  • 並行輸入品にかかるコミッション請求権が廃止された。従来、他の輸入業者により代理 店契約の対象物品が輸入される場合、登録代理店は、その製品・サービスに対するコミ ッション請求権を有したが、本改正により廃止された。
  • 販売代理店も商事代理法の保護対象とされることが明記された。旧商事代理法は、商事 代理店を対象とし、販売代理店は含まれていなかった。本改正により、委託者から独占 販売権を付与された販売代理店も商事代理法の対象とされた。
  • 修理工場がアフターセールス業務を提供できるようになった。独占的な代理店契約の対 象物品であっても、点検・修理業務に関しては、新商事代理店法上では、商事代理店の 独占権の対象外となった。
  • 特定の商品は保護対象外となる場合もある。閣僚委員会は、その一存で特定の商品およ びサービスを法令の対象外とすることができるものとされた。

 しかし、解約および更新拒絶の際の補償請求権をはじめとする、登録代理店に対するその他 保護条項は、そのまま継続する。 

その他、本改正により、法令を違反した際の懲役や過料を含む罰則を厳しく規定した。ただ し、罰則の対象となる違反の詳細が明記されていない。

おわりに

商事代理法の改正における上記3カ国の共通点は、登録代理店による独占権の緩和を目的と していることである。最も目立つ改正点として、従来、並行輸入品に関する委託者との紛争 が発生した際に、登録代理店または独占権を有する代理店に付与されていた輸入差止請求権 が、実質的に廃止(オマーンおよびクウェートでは法令上廃止されている。)されたことが あげられる。

とはいえ、実務上ではすでに実施済みの点も多く、既存の代理店契約において、契約条件の 大きな変化はないが、新規に代理店契約書を締結する場合は、締結前に近年の法令改正点を 慎重に考慮・検討する必要がある。