製品の安全性に関する問題が毎年幾つもメディアで報道され 注目を集めていますが、多くの場合、該当するブランドにとって は深刻な信用上の問題へと発展しています。 

これに関連する話題としては、過去 12 カ月から 18 カ月におい て、日本製品(電気製品および自動車)のリコールが多数あり ました。 

本稿では、英国法の下で適用される欧州の主要な規制条項に ついて概説し、製品の安全性と製品のリコールに関して現場で 発生する幾つかの主な問題について解説します。

一般的な枠組み

不安全な製品の製造事業者や流通事業者に英国で刑事責任を課す規制制度は、 主に 2005 年一般製品安全規則(General Product Safety Regulations 2005、 「GPSR」)で定められています。GPSR は、欧州一般製品安全指令(European General Product Safety Directive (2001/95/EC))に効力を生じさせるものであり、 セクター特有の規制対象である場合を除いて、全ての製品に適用されます。 セクター特有の制度に同等の規定が含まれていない場合は、GPSR が適用され ます。GPSR は、刑事制裁を後ろ盾として、幅広い安全要件を課しています。

欧州一般製品安全指令は間もなく廃止され、消費者製品安全に関する新規則に置き換えられます。英国における現行制度の最も重要な 特徴(以下に記載するとおり)は、この新規則が制定された後にも残る可能性が多分にありますが、リコールの補助とするために製品の マーキングについてより明確なルールを定めるなど、追加要件が幾つか設けられます。

2005 年一般製品安全規則

一般的な安全要件

製造事業者

GPSR の中核を成す要件は、製造事業者はいかなる製品も、それが安全な製品でない限り上市してはならないということです(規則 5 条)。 安全な製品とは、通常の、または合理的に予測可能な使用条件下で、リスクが全くないか、または製品の使用に見合う最小限のリスクのみ であるものとして、規則 2 条に広く定義されています。

(i) 英国法で定められた該当する特定の安全衛生要件、または(ii)欧州規格(欧州連合の官報に掲載されたもの)に効力を生じさせる 任意の国家規格のいずれかに適合している場合、当該製品は、一般的な安全要件を満たしているという前提が存在します。特定の分類 に属する製品(電子製品を含む)については、製品(または、それが実用的ではない場合は、そのパッケージ)に「CE マーク」を表示する ことにより、該当する EU 水準の安全規格への適合を保証することが、製造事業者に義務付けられています。

GPSR の下では、不安全な製品を上市することそのものが刑事上の犯罪となります。これは、以下に論ずるデュー・ディリジェンスの抗弁 のみが適用対象となる、厳格責任犯罪です。最高刑は、20,000 ポンド以下の罰金もしくは 12 カ月以下の懲役またはその併科となって います。

該当する訴追当局は、訴追するか否かの裁量権を常に有しています。当事務所の経験からすると、当局は通常のところ、製造事業者が 社会的信用度の高い企業であり、製品によってもたらされたリスクに対処するために責任ある措置を講じているように見受けられる場合に は、訴追しないという選択をします。しかし、多くの場合、欠陥が発見された時点で既に違反行為が犯されているという事実は、当局が 必要な是正措置であると考える措置を製造事業者が講じない場合、または当局が望む方法で、もしくは当局の望む期間内にこれを講じ ない場合に、当局にとって有用な執行ツールとなります。

流通事業者

流通事業者に課されている同等の義務とは、危険な製品であることを知りながら(またはその者が有する情報に基づいて(およびプロと して)推認しておくべきでありながら)その製品を供給しない(または供給するためもしくは供給の申出をするための保有もしくは供給する 合意をしない)というものです。

流通事業者が罪を犯したことを証拠立てるための立証責任は、製品が安全ではなかったという流通事業者側の知識または暗黙知を刑事 立証基準に基づいて検察側が証明する必要があるため、製造事業者に係る立証責任と比べて重いものとなっています。最高刑は、製造 事業者の場合と同じであり、20,000 ポンド以下の罰金もしくは 12 カ月以下の懲役またはその併科となっています。

通知義務

実務において最も難しい判断の一つは、製品が安全ではない(または、安全ではない可能性がある)ことを、いつ執行当局に通知するかと いうことです。製造事業者(または流通事業者)は、最初に潜在的な問題を認識した後、方策を決定する前に問題の性質と程度を理解 するためのテストを行いたいと考えますが、これには時間がかかる可能性があります。製品が安全でないかどうかについては幾分不確実 性が伴う可能性があり、また、仮にこれが明らかに安全でなかったとしても、製造事業者は通常、製品がもたらすリスクを明確化し、そして 重要なことに、当該製品の供給数と、どこで誰に供給したかを特定したいと考えます。当事務所の経験からして最も効果的なリコールは、 製造事業者がこれらの関連情報を執行当局に提供し、今後講じる措置を説明することができるケースです。

しかし、規則 9 条では、製品が安全ではないことを製造事業者または流通事業者が認知した際は、「直ちに」執行当局に通知しなければ ならないとされています。これについて欧州委員会のガイドラインでは、関連情報を入手次第通知が行われるべきであり、いずれにせよ、(i)10 日以内、または(ii)重大なリスクが認められた場合には直ちに、そして遅くとも 3 暦日以内に、通知が行われるべきであるとの解釈が されています。同ガイドラインには厳密な法的拘束力はありませんが、裁判所が確知する可能性は高いでしょう。なお、新規則案では、 この種のガイダンスが実際の規則の一部を構成することが意図されています。

規則 9 条に基づく通知を怠ることは、刑事上の犯罪です。当事務所の経験では、いくらか許容範囲があり、執行当局は、形式的な違反に ついて企業を訴追することよりも、リスクに対処するための適切な措置が講じられるよう確実を期すことに重点を置く傾向があるようです。 ただし、当局への通知が行われる前に消費者が負傷した場合は、対応が異なる可能性があります。このような状況においては、結果論で 判断されることとなり、製品がリスクをもたらすことを知るはずがなかったことを示すことが、製造事業者/流通事業者にとってより困難となる リスクがあります。したがって、通知を遅らせることのリスクは常に存在します。

製造事業者のその他の義務

規則 7 条に基づき製造事業者に課される以下の義務の不遵守についても、刑事制裁が科される可能性があります。

  • 製品に内在するリスクを評価し、かかるリスクが一見して明らかでない場合にそれらのリスクに対する予防策を講じることができるよう、 関連情報を消費者に提供する義務。
  • 製品がもたらす可能性のあるリスクについて製造事業者が情報を得ることを可能とするための措置を講じる義務。例としては、(i)製造事業者の名称および住所ならびに製品の参照情報を製品またはそのパッケージに記載する、または(ii)製品の安全性に 関する苦情について調査する、および(必要な場合は)苦情の記録を残しておく、などの方法が挙げられる。
  • 新規則の下では、製品(または、製品に記載することが不可能な場合は、パッケージ)に原産国を表示することが義務化され、製造 事業者/輸入事業者には、各事業者の連絡可能な名称と住所を含めることが義務付けられる。

流通事業者のその他の義務

流通事業者には規則 8 条の下、その活動範囲内において、以下の行為により製品の安全性のモニタリングに参加することが義務付け られています。

  • 製品によりもたらされるリスクに関する情報を伝えること。
  • 製品の出所をたどるために必要な文書類を保管し、必要なときにこれを提示すること。
  • 不安全な製品によりもたらされるリスクを回避するために執行当局および/または製造事業者と協力すること。 これらの義務もまた、刑事制裁によって執行能力が強化されています。

規則 7 条または 8 条に基づく訴追が成功した場合には、罰金もしくは 3 カ月以下の懲役またはその併科が適用されます。

安全性に関する通告

執行当局は GPSR に基づき、製造事業者または流通事業者に対して安全性に関する様々な通告を送達する権限を有していますが、 ��れには以下のようなものが含まれます。

  • 販売一時停止の通告(規則 11 条)-通告期間において、製造事業者/流通事業者が該当する製品を上市または供給することを 差し止めるもの。この種の通告は、当該製品に関して当局自らの安全性評価をとりまとめる時間が必要な場合に適している。
  • 表示・警告義務に関する通告(規則 12 条および 13 条)-該当する製品が特定の状況においてリスクをもたらす可能性があると 当局が判断する場合に適している。この通告は、製造事業者/流通事業者が当該製品に表示を記載するか、または製品に警告を 付することのいずれかを行うことを確保するものである。
  • 市場撤収の通告(規則 14 条)-製造事業者/流通事業者による製品の上市または供給を禁止するもの。これは極端な措置であり、 執行当局が(i)該当する製品が(緊急対策を必要とする)重大なリスクをもたらすものである、または(ii)問題を是正するために製造 事業者/流通事業者が講じている対策が不十分である、と判断する場合にのみ適用される。
  • リコールの通告(規則 15 条)-執行当局が製造事業者/流通事業者に製品のリコールを命ずることを可能とするもの。これは究極 的な権限であり、同規則で規定されたその他の対策が不十分である場合にのみ使用することができる。該当する製品が(緊急対策 を必要とする)重大なリスクをもたらす場合を除き、リコールの通告は、製造事業者/流通事業者による対策が不満足または不十分 であり、当局が少なくとも 10 日前にリコールの通告を行うことに関する通知を行った場合にのみ発行することができる。リコールの 通告が社会的信用度の高い企業に課されるケースは、そのような企業がおおむね例外なく早い段階で自主的に危険な製品の リコールを行うことから、実際には非常にまれである。

これらの通告のいずれかに違反することは刑事上の犯罪となり、20,000 ポンド以下の罰金もしくは 12 カ月以下の懲役またはその併科が 適用されます。

デュー・ディリジェンスの抗弁

上記の各違反行為に関しては、罪を犯すことを避けるために全ての合理的な措置を講じ、デュー・ディリジェンスを全て尽くしたことを(蓋然性の均衡(balance of probabilities)に基づいて)示すことが、製造事業者/流通事業者の抗弁となります。

立証責任は蓋然性の均衡に基づく民事上の証明基準に留まるものの、企業としては、適切な制度や手続が存在すること(例えば、検査 体制の存在)を証明するだけでなく、加えて、その制度が実際に正しく守られることを確保するよう企業が努めていたこと(すなわち、「合理 的な措置」と「デュー・ディリジェンス」の両方)を証明する必要があるため、実際のところ、抗弁の立証は困難です。合理的な措置が何で あるかを決定するにあたっては、事業の規模や製品に纏わるリスクの程度が勘案されます。

個人の訴追

規則 31 条 2 項では、企業が同規則に基づく犯罪について有罪である場合、いずれかの行為もしくは不履行が取締役、管理職、秘書役 もしくはその他類似役員の同意もしくは黙認の下に犯されたこと、またはこれらの者の怠慢に起因することが立証されたものに関しては、 当該個人もまた、当該企業と共にその犯罪について有罪となり、訴追の対象となる旨が規定されています。この条項の文言は、企業において階級の異なる地位に就いている者が人数を問わず含まれる潜在性があるかのように思われますが、 ほとんどの場合においては、個人に対する訴追は取締役に限定されることが判例で明らかにされています。R v Boal 事件 ([1992] 2 WLR 890)において控訴裁判所は、1974 年労働安全衛生法の類似規定との関連において、この条項は「企業における意思決定者で あって、企業方針や戦略を決定する権限と責任の両方を有する、真の権限を伴う地位」に就いている者のみを対象とするものである、と 判示しました。

執行当局の権限

執行当局は通常、欠陥製品が最初に発見された地域における地元当局の取引標準協会事務所となります。GPSR に基づき、取引標準 捜査官には捜査を実施するための広範な権限が与えられており、これには、施設に立ち入り、記録もしくは製品または製品の生産に関連 する全ての手順を調査する権限が含まれますが、弁護士秘匿特権の対象となるものについてはこの限りではありません。また、捜査官は、 製品の見本を押収する権限をも有しています。

捜査官による職務の遂行を故意に妨害することは犯罪であり、罰金刑に処せられます。