本件は、「省エネ行動シート」という媒体に関する発明 (以下「本願発明」)についての「発明」(特許法 2 条 1 項)該当性が問題となった、査定系の審決取消訴訟で す。知財高裁は、結論として、「発明」該当性を否定し て審判請求を不成立とした審決に違法はないとし、原 告の請求を棄却しました。

問題となった本願発明の特許請求の範囲(請求項 3) の記載は次のとおりです。

「建物内の場所名と、軸方向の長さでその場所での 単位時間当たりの電力消費量とを表した第三場所軸 と、

時刻を目盛に入れた時間を表す第三時間軸と、 取るべき省エネ行動を第三場所軸と直交する第三時 間軸によって特定される一定領域に示すための第三 省エネ行動配置領域と、からなり、 第三省エネ行動配置領域に省エネ行動により節約可 能な単位時間当たりの電力量を第三場所軸方向の軸 方向の長さ、省エネ行動の継続時間を第三時間軸の 軸方向の長さとする第三省エネ行動識別領域を設け ることで、該当する第三省エネ行動識別領域に示され る省エネ行動を取ることで節約できる概略電力量(省 エネ行動により節約可能な単位時間当たりの電力量と 省エネ行動の継続時間との積算値である面積によって 把握可能な電力量)を示すことを特徴とする省エネ行 動シート。」

まず、知財高裁は、発明該当性の判断基準について、 次のように述べました。

「請求項に記載された特許を受けようとする発明が、同 法 2 条 1 項に規定する『発明』といえるか否かは、前提 とする技術的課題、その課題を解決するための技術的 手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術 的意義に照らし、全体として考察した結果、『自然法則 を利用した技術的思想の創作』に該当するといえるか 否かによって判断すべきものである。

そして、『発明』は、上記のとおり、『自然法則を利用し た技術的思想の創作』であるところ、単なる人の精神 活動、意思決定、抽象的な概念や人為的な取決めそ れ自体は、自然法則とはいえず、また、自然法則を利 用するものでもないから、直ちには『自然法則を利用し た』ものということはできない。

したがって、請求項に記載された特許を受けようとする 発明が、そこに何らかの技術的思想が提示されている としても、上記のとおり、その技術的意義に照らし、全体 として考察した結果、その課題解決に当たって、専ら、 人の精神活動、意思決定、抽象的な概念や人為的な 取決めそれ自体に向けられ、自然法則を利用したもの といえない場合には、特許法 2 条 1 項所定の『発明』 に該当するとはいえない。」

その上で、知財高裁は、本願発明の発明該当性につ いて、次のように判示しました。

「本願発明の技術的意義は、『省エネ行動シート』とい う媒体に表示された、文字として認識される「第三省エ ネ行動識別領域に示される省エネ行動」と、面積とし て認識される『省エネ行動を取ることで節約できる概略電力量』を利用者である人に提示することによって、当 該人が、取るべき省エネ行動と節約できる概略電力量 等を把握するという、専ら人の精神活動そのものに向 けられたものであるということができる。」「本願発明の 技術的課題、その課題を解決するための技術的手段 の構成及びその構成から導かれる効果等に基づいて 検討した本願発明の技術的意義に照らすと、本願発 明は、その本質が専ら人の精神活動そのものに向けら れているものであり、自然法則、あるいは、これを利用 するものとはいえないから、全体として『自然法則を利 用した技術的思想の創作』には該当しない」。

なお、原告は、本願発明の「発明」該当性について、次 のような主張を行っていました。

「自然法則の利用があるかどうかは、発明の作用、効 果ではなく、特許請求の範囲の請求項に記載された構 成要件自体(発明特定事項)が自然法則に従う要素 であるか否かによって判断すべきであ」り、「本願発明 においては、シートは典型的には紙であり、領域や領域 名は典型的にはインクによって構成されており、請求項 には、紙とインクという自然物によって線画を所定位置 に配置するという工夫のみが記載され、本願発明の構 成要件のいずれにも精神活動等である構成要件は含 まれていないから、本願発明が自然法則を利用した技 術的思想の創作に該当しないということはできない」。

これに対して、知財高裁は、次のような理由を述べて、 原告の主張は採用できないとしました。

特許法 36 条 4 項 1 号の規定によれば、「特許を受け ようとする発明の技術上の意義の把握は、同法 36 条 5 項が定める特許請求の範囲の請求項に記載された 発明の発明特定事項(構成要件)だけではなく、明細 書の発明の詳細な説明をも参酌すべきである」。 「【請求項 3】には、本願発明が、紙やインクによって構 成されることは特定されていないから、原告の上記主 張は、特許請求の範囲の記載に基づくものということは できない」。

「本願明細書を参酌しても、『省エネ行動シート』は、プ リンタ装置で印刷される態様だけではなく、少なくとも、 ディスプレイ装置の画面上に表示される態様も記載さ れているように、本願発明は、『省エネ行動シート』とい う媒体自体の種類や構成を特定又は限定していない」本件は、「発明」該当性の判断の基礎となる本願発明 の技術的意義の把握の仕方等に関して、実務上の参 考になると思われます。(市川 英彦)