はじめに

国連安全保障理事会常任理事国プラスドイツおよびイランとの間で策定された核問題に関する 包括的共同作業計画(「JCPOA」)により、「合意履行日」は、2016 年 1 月 16 日と定義され た。合意履行日に欧州連合、米国および国連安全保障理事会は、イランによる核プログラム制 限への合意および JCPOA 遵守の確認と引き換えに、多くの対イランの経済制裁を解除した。

ただ、米国民に影響する米国の「一次制裁」の多くは、合意履行日以降も今なお有効で、特定 のイラン取引先に対しての米国による制裁も同様に有効である。しかし、いわゆる「二次制 裁」の解除により、非米国企業は、原則として自由にイランとの貿易および対イラン投資を行 うことができるようになった。

とはいえ、非米国企業は、今なお有効な米国経済制裁要件を遵守しているかを確かめるべきで ある。さらに、非米国企業に適用される、一定の制裁要件への遵守を証明できる状態にあるこ とは、非常に重要といえる。

今なお有効な米国経済制裁

米国政府は、米国民による対イラン貿易、取引、投資を禁止する幅広い制裁プログラムを実行 しており、膨大なイランにおける制裁先のリストを有している。これらの「一次制裁」は、米 国の管轄対象となる人および財産に適用され、関連するほぼ全ての一次制裁は、イランに対す る取引及び制裁規則(「ITSR」)(31 C.F.R. Part 560)に規定される。

米国の対イラン一次制裁は、以下に適用される。 

  • 米国法人または個人(米国民、米国永住権保持者、米国内に設立された法人、その他米国 内のいかなる人および財産を含む) 
  • 米国法人の子会社
  • 非米国人で米国制裁の管轄対象者の活動を促すこと
  • 違反行為を企てること、回避または起因すること

 その他、イラン経済に大きな影響を及ぼすイラン革命防衛隊(IRGC)と関連がある企業は、制 裁対象となっている。米国財務省外国資産管理局(OFAC)は、IRGC とその隊員、職員および 関連機関を特定国籍者(SDN)とし、SDN のリストをインターネット上で公開している。 (https://sanctionssearch.ofac.treas.gov/)

かかる制裁は、SDN により所有または管理される人および企業にも及ぶ。米国財務省の指針書 は、その会社株式の 50%以上が SDN により直接または間接的に保有されていれば、制裁対象 企業と見なしている。

コンプライアンス上の要件

イランとの取引を検討する場合は、かかる取引が有効な米国経済制裁に関する規定を遵守し、 違反がないことを確認していることを証する社内コンプライアンス手続を策定することが重要 である。かかる手続には、以下の確認が含まれる。

  • 取引当事者に米国法人または個人がいないことの確認 米国法人または米国民もしくは米 国永住権保持者が、かかる取引のいかなる面にも参画していないことの確認を意味する。
  • 支払いに米ドルが使用されていないことの確認 米ドルを用いる取引は、米国の金融シス テムを経由するため、米国内での活動と見なされて米国一次制裁の監督対象となる。米ド ルでの支払禁止は、特に非米国法人または個人でイランとのビジネスを検討している者に とって影響がある。かかる者を当事者とした米国外での取引を非米国銀行がサポートした 場合でも、米ドル支払いであることのみで経済制裁の対象となりかねないことが理由であ る。イランビジネスにおいて、取引通貨の選択肢は限られるが、多くの欧州およびアジア の銀行は、イランとのビジネスのルートを広げつつある。また、イランでも数行は外国通 貨での取引を扱っている。
  • 米国製品が取引対象となっていないことの確認 米国輸出管理規則および ITSR に基づくラ イセンスを持たずに、イランに対し米国の管理下にある物品を直接・間接的に輸出、再輸 出または移送することおよびその関連取引は禁じられている。また、米国を原産とする商 用および軍民両用物品、ソフトウェアは米国の監督対象であるが、対イランの場合、非米 国産品で 10%量以上の米国産内容物が含まれる物品も監督対象となる。したがって、イラ ンおよびイラン人に対して輸出する際は、いずれの製品(部品およびソフトウェアを含 む)も 10%量以上の米国産内容物を含まないことを確認する必要がある。
  • 取引相手が「特定国籍者」でないことの確認 前記の米国財務省リストにより、基本的な確 認は可能であるが、それだけでは特定の企業が SDN により直接または間接的に保有・管理 されているかを確認することは難しい。比較的費用効率の高い調査方法は、取引相手に署 名済みのコンプライアンス証明書の提出を要請し、SDN との取引が禁じられているために 取引相手方の証明が必要な旨を説明することである。ただし、このような任意のコンプラ イアンス証明では不十分な場合もあるため、確実性を高めるためには、費用はかかるもの の、取引相手に関するレポートを第三者の調査会社に依頼する方法が用いられる。

 重要なことは、イランとのビジネスを検討している企業は、上記確認をそれぞれ実行したこと を証する書面全てを保管することである。これには、上記の各手続を記した社内用コンプライ アンス・チェックリストを作成すればよい。

法令遵守を証明するには

実際には、非米国企業の対イラン取引が直接米政府機関により監視される見込みは薄いが、コ ンプライアンスの重要性を軽く見るべきではない。ほぼ全ての対イラン取引は、銀行、金融機 関、保険会社、その他契約相手の精査対象となるからである。特に、米ドルを扱う銀行は、イ ラン法人または個人との取引での口座保有者からの送金に関しては、直ちに監視対象とし、米 国経済制裁へのコンプライアンス実行状況につき報告を求めると考えられる。

また、米国企業 等は、貿易相手に対し、コンプライアンス証明書の提出を求めることがある。 なお、一次制裁に違反した場合の罰則は広範にわたり、民事法、行政法および刑法上の刑罰が 科される可能性がある。

したがって、社内でのコンプライアンス・プログラムを策定し、実行状況を文書化のうえ保管 していれば、イラン関連取引に対する監視への有効な対抗策となるだろう。

イラン・ビジネスにおいての契約

イラン関連ビジネスにおいては、上記法令を遵守し、遵守しなくなった時点で取引が無効にな る旨を契約書に盛り込むべきである。このような契約により、イランが JCPOA 上の義務に従わ ず、一気に JCPOA 前の制裁状況に戻るというような事態になったとしても、契約解除が可能と なる。