バイオ医薬品は、米国の医薬品市場において大きく成 長し続けている。これは、世界的な流れを反映したも のであり、全世界におけるバイオ医薬品の市場規模 は2011年には1500億ドルであったとされてお り、2017年には2500億ドルを超えると予想されてい る。米国では、医薬品の売り上げトップ10のうち、バ イオ医薬品が既に4つを占めている。このような状況 を踏まえ、バイオ後続品(元々のバイオ医薬品と高度 に類似する後続の医薬品)の市場参入の道を開いた医 療負担適正化法(アフォーダブル・ケア・アクト)に よって、バイオ後続品に対する規制枠組みがどのよう に展開していくのかに注目する必要がある。

バイオ医薬品は、病気の治療、診断、予防に用いられ るもので、生物細胞由来の、大型で複雑な構造をもっ たタンパク質からできている。バイオ医薬品は、より 一般的に知られている「低分子」医薬品(例えば、ア セトアミノフェン)とは異なり、バクテリアや酵母又 は哺乳類細胞といった生物の中で生産されるものであ る。複雑なものであるため、バイオ医薬品の有効性 は、製造時の状況から非常に影響を受けやすい。よう やく知られるようになってきたが、バイオ医薬品は、 目新しいものでも実験的なものでもない。バイオ医薬 品は、癌や関節リウマチ及び多発性硬化症等の慢性疾 患の治療に用いられている。

バイオ後続品承認のための規制枠組み 医療負担適正化法は、既に承認されているバイオ医薬

品(「先行品」)の「バイオ後続品(バイオシミ

ラー)」であると示されたバイオ製品に関す

る、FDA承認の「略式」申請手続を導入した。この略 式手続は、BPCI法と呼ばれる法律の一部に規定されて いる。同法により、バイオ後続品の承認申請に基づ くFDAの承認及び特許訴訟の枠組みが定められた。

例えば、BPCI法によると、先行品と「高度に類似する」こ とを示すデータを提出した場合に、バイオ製品は「バイオ 後続品」となる。そして、重要な点として、先行品が特許 で保護されている場合には、同法に基づく略式申請を行う ことにより、特許訴訟へと発展する可能性がある。

パテント・ダンス

バイオ後続品の承認申請がFDAに提出された後には、一般 的に「パテント・ダンス」と呼ばれる特許紛争を解決する ための手続が存在する。この手続では、時期や流れに関す る厳格な要件があり、先行品のスポンサー(先行品の承認 申請手続のスポンサー。通常は、イノベーター・カンパ ニー)とバイオ後続品申請者との間で複数回に亘って情報 交換が行われる。以下のような重要な手続がある。

  • バイオ後続品申請者は、FDAが略式承認申請を受け 付けてから20日以内に、先行品のスポンサーに対し て、バイオ後続品の申請及び関連する製造情報へ の、守秘義務を課した上でのアクセスを認めなけれ ばならない。
  • 先行品のスポンサーは、上記資料を受領してか ら60日以内に、バイオ後続品申請者に対して、(1)侵 害されたと考える特許のリストを提出し、ま た、(2)上記リスト記載の特許の中で後続品申請者に 対してライセンスしても構わないと考えるものが存 在すれば、これを特定する。
  • バイオ後続品申請者は、上記特許リストの受領か ら60日以内に、先行品のスポンサーに対して、各特 許がなぜ無効であるか、なぜ執行することができな いか、なぜ侵害されていないかという点について、 事実上及び法律上の根拠をクレームごとに記載して 提出しなければならない。バイオ後続品申請者は、 この期間内に、先行品のスポンサーに対して、逆に バイオ後続品申請者側で特許訴訟の対象となると考 える特許のリストを提出して反論することもでき る。
  • 先行品のスポンサーは、上記資料を受領してか ら60日以内に、上記各特許侵害についての事実上及 び法律上の根拠及び特許の有効性及び執行力の点に 関する反論を、クレームごとに記載して提出しなけ ればならない。
  • そして、特許侵害訴訟の対象となる特許が存在する 場合には、当事者は、最長で15日間誠実に交渉を 行って当該特許のリストを作成する。
    • 当事者がリスト作成につき交渉の上合意に至れ ば、先行品のスポンサーは、上記リスト作成か ら30日以内に、特許侵害訴訟を提起しなければ ならない。
    • 当事者がリスト作成につき交渉の上合意に至ら ない場合、バイオ後続品申請者は、先行品のス ポンサーに対して、上記やりとりを踏まえた上 で改訂された第二次リストにおいて、提供する 特許の数を通知しなければならない。そして、 当事者は、上記通知から5日以内に、各当事者 が侵害訴訟の対象となるべきと考える特許のリ ストを同時に交換しなければならない。先行品 のスポンサーは、当該リストの交換から30日以 内に、同時に交換したリストに記載された全て の特許について、特許侵害訴訟を提起しなけれ ばならない。

バイオ医薬品承認申請の手続が、特許訴訟の係属中、規制 当局によって自動的に停止される、ということはない。 よって、先行品のスポンサーは、後続品が発売される「潜 在的な危険」を防ぐため、仮差止による救済を積極的に求 めていく必要がある。BPCI法により、バイオ後続品申請者 は、当該バイオ後続品を最初に市場に出す180日前に先行 品のスポンサーに対して通知を行わなければならないた め、これにより、先行品のスポンサーが仮差止を求めるこ とが可能となっているといえる。

パテント・ダンスを巡る規制枠組みにつき、重要な問 題が数多く発生している。例えば、上記枠組みでは連 邦裁判所における特許訴訟が予定されているが、当事 者系レビュー(Inter Partes Review、IPR)及び付与後レ ビュー(Post Grant Review、PGR)といった、バイオ後 続品申請者が当該バイオ後続品に対する承認を得た後 に特許性を争うために起こすことができる手続に関し ては、上記枠組みの中で全く触れられていない。この ような承認後の手続は、特許を無効化するためのコス ト効率が良い手段であるため、一般的になりつつあ る。

また、パテント・ダンスの複雑な手続や当事者間での やり取りを巡って既に訴訟が発生している。最近のカ リフォルニア州北部での訴訟において、アムジェン社 は、本年初頭にアメリカで初めてバイオ後続品略式承 認申請(アムジェン社のニューポジェン ®(Neupogen®) (一般名:フィルグラスチム)とい う製品に関するもの)を行ったサンド社が、アムジェ ン社に対して、BLA(バイオロジック・ライセンス・ アプリケーション、バイオ医薬品を州をまたいで流通 させる際に必要となるライセンスの申請)及び製造情 報を提供することを拒み、その他法律上の規定に従わ ず、BPCI法に規定された「ルール」に従わなかった、 と主張した。他の裁判所も今後パテント・ダンスに取 り組くんでいくことから、上記事件の裁判所によ るBPCI法の解釈及び要件の適用は、教育的なものにな るであろう。