公正取引委員会は平成 27 年 7 月 8 日に「知的財産 の利用に関する独占禁止法上の指針」(以下「知的財 産ガイドライン」)の一部改正案を公表し、同年 8 月 6 日を期限としてパブリックコメントを実施していました。パ ブリックコメントに関しては、意見募集期限から 1~2 か 月以内に成案が公示されるケースが多いですが、本件 に関しては関係各方面から 54 件の意見が寄せられ、 公正取引委員会において慎重に検討された結果、約 半年後の平成 28 年 1 月 21 日付で「知的財産ガイド ライン」が一部改正、公表されました。

本一部改正は、いわゆる標準規格必須特許等の権利 の行使に関するものです。主な改正の内容は、① FRAND 宣言をした標準規格必須特許等を有する者 (宣言をした本人であるか、その後の譲受人又は受託 管理者であるかは問われません。)が、FRAND 条件で ライセンスを受ける意思を有する者に対し、ライセンス を拒絶し、又は差止請求訴訟を提起することが他の事 業者の事業活動を排除する行為に該当する場合があ ること、②仮に当該行為が規格を採用した製品の市場 における競争を実質的に制限するまでには至らず私的 独占に該当しない場合であっても公正競争阻害性を 有するときには、不公正な取引方法に該当することの 2 点です。

本一部改正では、パブリックコメント前の段階と、パブリ ックコメント後の成案でいくつかの違いが見られます。以 下で主な相違点を紹介します。

第一に、パブリックコメントを受けて改正後の「知的財産 ガイドライン」の対象となる権利等が明確化されました。 具体的には、改正案の段階においては、「規格で規定 される機能及び効能の実現に必須な特許等」が対象 とされていましたが、成案では「規格の実施に当たり必 須となる特許等」に限定されることになりました。なお、 本一部改正において「標準規格必須特許」という略語 が用いられていますが、あくまで対象は「特許等」であっ て「特許」に限られないことから、「知的財産ガイドライ ン」第 1、2 で適用対象とされているすべての技術を対 象としていると考えられる点には注意が必要です。

第二に、成案では「FRAND 条件でライセンスを受ける 意思を有する者」であるか否かの判断は、ライセンス交 渉における両当事者の対応状況等に照らして、個別事 案に即して判断されるとされました。改正案でも個別事 案に即した認定をする趣旨の記載がありましたが、ライ センス交渉の相手方が「裁判所又は仲裁手続におい てライセンス条件を決定する意思を示している場合 は、FRAND 条件でライセンスを受ける意思を有する者 とみられる」と記載されているなど、安易に「FRAND 条 件でライセンスを受ける意思を有する者」であるとの認 定がなされるとの誤解を生じかねない記載もありまし た。成案ではこうした「FRAND 条件でライセンスを受け る意思を有する者」であると認められる例を記載するの ではなく、該否を判断する上での考慮要素を具体的に 例示する形に改めることによって、個別事案ごとに客観 的事実関係に基づいて実質的に判断することをより明 確化しています。

第三に、不公正な取引方法に該当するか否かを判断 するにあっても、個別事案に即して競争への影響の評 価が行われることが明確化されました。パブリックコメン トの回答によれば、改正案の段階においても、規格が 「広く普及している」場合には代替技術への切替えが困 難であるため、規格を採用しない場合は事業活動が困 難になるという意味において、競争に悪影響が及ぶこと が念頭に置いていたとのことですが、成案では「公正競 争阻害性を有するときは、不公正な取引方法に該当 する」と明記されています。

以上で見てきたとおり、パブリックコメントによる修正は、 本一部改正の趣旨を明確化するものがほとんどです。

差止請求権はオープン・クローズ戦略の根幹をなすも のであり、差止請求権が制限されればオープン領域と して規定せざるを得ませんから、差止請求権がいかな る範囲で制限されるかは、知財戦略全体に大きな影 響を与えます。そして、差止請求権がいかなる場合に 制限されるかが不明確であれば、権利者が適切なオ ープン・クローズ戦略を構築すること自体が困難となり ます。本一部改正は、知的財産権の行使に係る個別 事案に関する裁判所の判決、決定の示した基準を踏 まえて、競争法の監督当局がその判断基準を明確に 示すものであって、かかる観点から見ても意義のあるも