2010年10月30日に『名古屋議定書』が国際連合生物多様性条約第10回締約国会議で採択

され、その核心的な内容として第5条で「公正かつ衡平な利益の配分」が謳われているが、同 条項の要旨は次の通りとなっている。(1)遺伝資源の利用並びにその後の応用及び商業化か ら生ずる利益は、条約第15条3及び7の規定に従い、当該遺伝資源を提供する締約国と配分す る。その配分は、相互に合意する条件で行う。(2)1の規定を実施するため、適宜、立法 上、行政上又は政策上の措置をとる。(3)利益は、金銭的及び非金銭的な利益を含むことが できる。

中国特許法には、遺伝資源に関連する条文として第5条第2項と第26条第5項の2つが存在 する。

第5条第2項    法律、行政法規の規定に違反して遺伝資源を取得又は利用し、当該遺伝資源 に依存して完成された発明創造には、特許権を付与しない。

この条文は、拒絶理由であるとともに無効理由でもあるが、この条文における「遺伝資 源」は、中国の遺伝資源を対象としている。

第26条第5項 遺伝資源に依存して完成された発明創造について、出願人は、特許出願書 類において当該遺伝資源の直接の出所及びもとの出所を説明しなければならない。出願人は、 もとの出所を説明できないとき、理由を陳述しなければならない。

この条文は、単に拒絶理由とだけされていて無効理由とはされていないが、この条文にお ける「遺伝資源」は、あらゆる国を出所とする遺伝資源を対象としている。

この条文に基づき、遺伝資源に依存して完成された発明について出願をするとき、出願人 は、願書において説明をし、かつ、特許庁の定める遺伝資源出所開示登録票に遺伝資源の直接 の出所及びもとの出所に関する具体的な情報を記入しなければならない。

実務上、次のケースは、通常、出所を開示しなければならないことが明らかな場合に該当 する。

  1. 遺伝資源から遺伝の機能的な単位を分離して分析し利用するもの。
  2. 遺伝資源に含まれる遺伝の機能的な単位について遺伝子の組換えをすることで遺伝 形質を改変したり、工業的に生産する目的を達するもの。
  3. 有性又は無性の繁殖によって特定の性状を有する新しい品種又は株を発生させるも の。
  4. 自然界から特定の機能を有する微生物を単離するもの。 次のケースは、通常、出所の開示が必要

でない場合に該当する。

  1. 遺伝子工学上の運用において通常使用される宿主細胞等。
  2. 先行技術において既に開示されている遺伝子又はDNA/RNA断片。
  3. 発明の効果を検証するときにのみ使用される遺伝資源。
  4. 単に候補対象として選別され、その後で除外された遺伝資源。

(5)発明創造の完成に遺伝資源が利用されているが、その遺伝機能が利用されていない もの。

しかしながら、ここで注意すべきこととして、遺伝資源の出所開示は、明細書にも十分に 開示されていることを前提としなければならない。登録票中の内容は、当初の明細書及び特許 請求の範囲に記載された内容に含まれないので、明細書の開示要件を判断する上での根拠とす ることはできず、明細書及び特許請求の範囲を補正する上での基礎とすることもできない。

つまり、出願人は、使用する遺伝資源について、例えば、その出所、生物的特徴や寄託に 関する事項などを明細書に記載して、明細書の開示要件が充足されるようにもしなければなら ないことに注意する必要がある。

審査の実務では、遺伝資源に依存して完成された発明創造について、審査官は、出願人が 登録票を提出しているか否かを審査している。出願人が登録票を提出していなければ、審査官 は、どの遺伝資源について出所の開示や理由の説明が必要であるかを具体的に明示するととも に、登録票を追完するよう出願人に通知する。通常の場合、出願人は、登録票を追完するか、 又は意見陳述をして対応すればよい。

以上の通り、特許法第26条第5項は、特許出願書類の形式的要件でしかなく、出願人は、 登録票を出願時に提出してもよければ、実体審査段階のいつでも自発的に提出してもよいし、 審査官の求めに応じて提出してもよい。従って、効率を高めるため、出願人は、出所の開示が 明らかに必要な遺伝資源についてのみ出願提出の際に登録票を提出するようにしても差し支え ない。遺伝資源の出所開示の要否判断が難しい複雑な案件があったときは、出願提出時にはま ず登録票を提出しないことで、自身の利益に影響しないようにすることもできる。