本件は、活性型ビタミン D3 誘導体の1つであるマキサ カルシトールの製法を巡る特許権侵害行為差止請求 (控訴)事件であり、均等侵害の成否が争われたもので す。知財高裁(大合議体)は、結論として均等侵害の 成立を肯定し、差止請求を認容した原審判決を是認し ました。

本件の被控訴人(原審の原告。以下「原告」)は、マキ サカルシトール(角化症治療剤の有効成分とされます) を含む化合物の製法に関する特許(以下「本件特 許」)の共有者の1人です。原告は、控訴人ら(原審の 被告ら。以下「被告ら」)が輸入販売するマキサカルシト ール原薬及び製剤(以下「被告製品」)の製造方法 (以下「被告製法」)が、本件特許の請求項 13(訂正 後のもの)に係る発明(以下「本件発明」)と均等である として、被告製品の輸入譲渡等の差止を求めました。

本件発明は、大要、出発物質を特定の試薬と反応さ せて中間体を製造し、その中間体を還元剤で処理して 目的物質(マキサカルシトールを含む化合物)を得ると いう発明です。被告製法は、本件発明の試薬及び目 的物質に係る構成要件を充足する一方、出発物質及 び中間体に係るビタミン D 構造が、(本件発明の請求 項に記載された)シス体ではなく、その幾何異性体であ るトランス体であるという点で、本件発明と相違します。 原告は、当該相違点に関して均等侵害を主張したもの です。

第 1 要件

 1 要件については、被告製法のうち、本件発明との 相違点である出発物質及び中間体に係るビタミン D 構 造がシス体ではなく、トランス体であることが、本件発明 の本質的部分であるかが争われました。

知財高裁は、この本質的部分の把握の仕方等に関 し、次のように述べました(紙幅の関係上一部判示事 項を省略しています)。

①特許発明の本質的部分とは、「当該特許発明の特 許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない 特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解 すべきであ」り、「特許請求の範囲及び明細書の記載、 特に明細書記載の従来技術との比較から認定される べきであ」る。そして、「①従来技術と比較して特許発 明の貢献の程度が大きいと評価される場合には、特許 請求の範囲の記載の一部について、これを上位概念 化したものとして認定され」「②従来技術と比較して特 許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される 場合には、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものと して認定され」る。

②ただし、「明細書に従来技術が解決できなかった課 題として記載されているところが、出願時(又は優先権 主張日)」「の従来技術に照らして客観的に見て不十 分な場合には、明細書に記載されていない従来技術 も参酌して、当該特許発明の従来技術に見られない 特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定され るべきであ」り、「そのような場合には、特許発明の本質 的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載のみか ら認定される場合に比べ、より特許請求の範囲の記載 に近接したものとなり、均等が認められる範囲がより狭 いものとなると解され」る。

上記も踏まえ、知財高裁は、本件発明について、特許 明細書の記載に照らせば、マキサカルシトールの側鎖 を有するビタミン D 誘導体の製法として、従来技術に開 示されていなかった製法を提供することを課題とするも のであり、その具体的な解決手段として、上記各構成 要件に規定されるような方法を採用したものであると認 定しました。そして、そのような本件発明は、従来技術 にはない新規な製造ルートにより目的物質を製造する ことを可能とするもので、従来技術に対する貢献度は 大きいとしました。また、被告らが従来技術として提出 した複数の公知文献に照らしても、本件特許明細書に おける従来技術の記載は、客観的に見て不十分であ るとはいえないとしました。その上で、(本件発明の請求 項に記載された)出発物質・中間物質がシス体のビタミ ン D構造である点については、本件発明の本質的部分

には含まれないとしました。そのため、被告製法につい て、出発物質及び中間体に係るビタミン D 構造がシス 体ではなくトランス体であることは、本件発明の本質的 部分に係るものではなく、第 1 要件を充足すると判示し ました。

第 5 要件

第5要件に関しては、特許発明とは異なる対象製品等 の構成(本件ではビタミン D 構造がシス体ではなくトラン ス体であること)が、特許出願時に出願人が容易に想 到できたものであるような場合の、(均等を否定する) 「特段の事情」の認定のあり方が問題となりました。

知財高裁は、次のような判断基準を示しました。 ①「特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同 一なものとして、出願時に当業者が容易に想到するこ とのできる特許請求の範囲外の他の構成があり、した がって、出願人も出願時に当該他の構成を容易に想 到することができたとしても、そのことのみを理由とし て、出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載 しなかったことが第5要件における『特段の事情』に当 たるものということはできない」。

②もっとも、「出願人が、出願時に、特許請求の範囲外 の他の構成を、特許請求の範囲に記載された構成中 の異なる部分に代替するものとして認識していたものと 客観的、外形的にみて認められるとき、例えば、出願 人が明細書において当該他の構成による発明を記載 しているとみることができるときや、出願人が出願当時 に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成に よる発明を記載しているときには、出願人が特許請求 の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは、第5 要件における『特段の事情』に当たるものといえる」。

上記を踏まえ、知財高裁は、被告らが第 5 要件の「特 段の事情」として主張した本件特許明細書の記載等に ついて検討し、本件特許明細書には、本件発明の出 発物質をトランス体のビタミン D 構造とする発明を記載 しているとみることができる記載はなく、その他、出願人 が、本件特許の出願時に、トランス体のビタミン D 構造 を、本件発明のシス体のビタミン構造に代替するものと して認識していたものと客観的・外形的にみて認めるに 足りる証拠はないとして、「特段の事情」があるとはいえ ないとしました。

従来、均等の第1要件における発明の「本質的部分」 の把握の仕方を巡っては、(A)新規性・進歩性の程度 に基づく発明の価値の実質的評価に基づき、その解決 手段を上位概念化(抽象化)したものを課題解決原理 として抽出することが許容され得るという見解がある一 方、(B)そのような抽象化には恣意的な判断の余地が 懸念されるという指摘もありました。また、本質的部分 の認定に用いる証拠の範囲を巡り、明細書以外の証 拠も参酌して本質的部分を認定する裁判例(知財高 判平 23・3・28(平成 22 年(ネ)第 10014 号))がある 一方、明細書の記載のみから判断すべきとする考え方 (知財高判平 19・3・27(平成 18 年(ネ)第 10052 号) はそのような方向を示唆する)もありました(今井弘晃 「最近における均等の裁判例」Law & Technology別冊 No.1(2015)112 頁)。均等の第 5 要件に関しては、出 願時にクレーム可能であった構成を記載しなかった場 合に「特段の事情」に当たるとして均等が否定されるか という論点があり、この点につき知財高裁では事件によ り異なる趣旨の判断がなされていたとされます(今井・ 前掲 113 頁)。

本件の知財高裁(大合議体)の判断は、上記の諸論 点にも関連して(第 1 要件及び第 5 要件に係る)一定 の判断基準を提示し、本件の具体的事情の下で均等 の成立を肯定したものであり、今後の裁判実務の方向 を示すものとして注目されます。ただし、本件について は 4 月 7 日付で上告受理の申立てがなされており、そ の帰趨を見定める必要があるでしょう。(後藤 未来)