2015年9月にサリー・クイラン・イェーツ連邦副司法 長官が連邦司法省(DOJ)の検察官に向けて発表した 「イェーツ・メモ」については、既に数多くの文献が 発表されている。イェーツ・メモは、DOJの上位検察 官が少なくとも過去1年間に述べてきたこと、及び、 過去10年間に渡りDOJの反トラスト部門が行ってきた ことを繰り返し述べるものである。すなわち、政府へ の協力により便益を得ようとする会社は、従業員や役 員の刑事責任に「関連する事実を全て」提出しなけれ ばならない、というものである。3か月前に発表され たこのイェーツ・メモが日本企業にどのような影響を 与えるかについては、既に判明していることと判明し ていないことがある。

最近の自動車部品関連調査における、日本国民である 日本企業の従業員に対する反トラスト部門の積極的な 責任追及姿勢からも、DOJが個人を訴追し個人に懲役 刑を課す努力を緩めようとしないことは明らかであ る。この点において、米国の反トラスト調査に注目し ている米国の弁護士及び日本の弁護士にとって、 イェーツ・メモは新しいものではなく、連邦海外腐敗 行為防止法に関するクロスボーダー調査におけるもの と同様のアプローチを予想し得る。

イェーツ・メモが、会社が協力による便益を得るため には、従業員について徹底的に調査を行い従業員を 「差し出」さなければならない、ということを示すと すれば、直ちに協力による便益を得るとの決定をしな い会社も出てくる可能性がある。会社対個人という状 況を作るか、又は、一切協力しない、という「全部か ゼロか」の選択肢であれば、慎重に検討する会社も出 てくる可能性がある。調査の早期の段階で、従業員に 別途代理人弁護士をつけようとする会社が出てくる可 能性もあり、また、従業員の中には、会社内で懲罰を 受ける可能性があったとしても、自身が刑事責任を問 われるような場合には「協力」するか否かについてよ り慎重になる人が出てくる可能性もある。このような 不確実性の中、内部調査によって従業員の刑事責任を 明らかにする証拠を効果的に提出できるか否かについ て明白になるまでは、DOJに協力しない、と決定する 会社が出てくる可能性もある。

DOJは、イェーツ・メモにおける「全部かゼロか」の バランスについての表明の部分を既にやや撤回した。 すなわち、2015年10月及び11月における公式声明にお いて、イェーツ氏は、従業員による不正行為を完全に 示すにあたり「関連する事実の全て」を開示しなけれ ばならないということを意味したものではない、と明 確にした。そして、調査によっても従業員の有罪責任 を立証するのに必要な「全ての」事実が判明しないこ ともあることはDOJも認識しており、イェーツ・メモ では、会社として合理的に示すことができる事実の一 切を開示しなければならないことを意味したに過ぎな い、と述べた。

最善の努力をしても調査によって従業員の有罪責任を 立証する十分な証拠を示せなかった、ということを日 本企業が主張する場合に、どの程度これが認められる かについては依然として不明である。DOJがそのよう な主張をどの程度受け入れるか不明であり、また、 DOJがそのような主張をどのように評価し真偽を確か めようとするのかも不明である。会社が従業員の有罪 責任を立証する十分な証拠を示せない場合に、そもそ も協力を決定した際の基準であるはずの「協力による 便益」をどの程度得られることになるのかも不明であ る。

DOJによるクロスボーダー調査に巻き込まれた会社に とって、協力により得られる便益はより不明確とな り、難しい判断に直面するという状況は今後も継続す る。