1.「熱安定グルコアミラーゼ」の特許無効事件

国家知識産権局特許審判委員会、ノボザイムズ社と江蘇博立生物製品有限公司の間で争われた発明特許権無効行政紛争再審事件〔最高人民法院(2016)最高法行再85号行政判決書〕

意義:最高人民法院は、本件において、次のように判示している。特許法第26条第4項の規定によれば、請求項で保護を求める技術的解決手段は、当業者が明細書に十分に開示されている内容から得ることのできるか、又は一般化・抽象化して導き出すことのできる技術的解決手段でなければならないとともに、明細書の範囲を超えてはならないものである。全長に591個のアミノ酸があるSEQIDNO:7について、これと99%以上の相同性を有する配列になお約5~6個のアミノ酸部位の相違があったとしても、請求項10、11でさらに特定されている前記酵素は、相同性の特徴以外に、T.emersoniiという菌種と特別の菌株であるT.emersoniiCBS793.97とを出所としている。種は生物の分類の基本単位であるので、ある基本的な特徴において、同じ種の中の個体は高度の類似性を互いに示すものであると当業者には一般的に認められており、同じ種の真菌又は同じ株の真菌がその体内のある種の酵素をコードする遺伝子配列は、通常、特定のものであるので、相同性の極めて高い変形配列が偶然極少数存在していたとしても、それに応じて、その遺伝子によってコードされる酵素も特定ものであるか、又は極少数である。本件では、99%以上の相同性と菌種又は菌株の出所とで二重に限定されることで、請求項10及び11の保護範囲は、極めて限られた酵素にまで既に減縮されている上、請求項10及び11には、請求項6で特定されている酵素の等電点と、グルコアミラーゼ活性を有するという機能もさらに含まれている。従って、明細書中の実施例1~4で既に上記のSEQIDNO:7がグルコアミラーゼ活性を有することが実証されている場合、請求項10及び11の保護範囲は、明細書に裏付けられたものということができる。請求項13及び14で請求項12の(a)、(b)を引用する技術的解決手段も、明細書に裏付けられたものということができる。最高人民法院は、本件において、相同性に加えて出所や機能を特定する形式を用いた生物配列の請求項が明細書に裏付けられているという判断準則と、生物配列の発明特許が権利化されるという基準を明らかにしているが、これは、タンパク質、遺伝子に関する特許出願の書類作成と審査に指導的意義を有するものであり、バイオテクノロジー産業のイノベーションと発展を促進することにも資するものであるといえよう。

2.「美顔器」の意匠特許権侵害事件

パナソニック株式会社と珠海金稲電器有限公司、北京麗康富雅商貿有限公司の間で争われた意匠特許権侵害紛争上訴事件〔北京市高級人民法院(2016)京民終245号民事判決書〕

意義:本件特許は、「美顔器」の意匠特許で、極めて高い市場価値を有するものであるが、本件で認められた高額の賠償額は、侵害の損害賠償額に知的財産の市場価値を十分に反映させて実現させるという司法による保護の理念が十分に表されたものである。第二審判決では、特許権侵害民事事件で侵害により得た利益の証拠を審査、認定する上での準則がさらに明らかにされ、類似の事件に対し一定のモデル的意義を有している。第二審判決では、次のように判示されている。特許権の損害の立証が困難で、特許権侵害行為と関連のある帳簿、資料が主に侵害者に掌握されていることを考慮すれば、権利者がその立証能力の範囲で侵害者が利益を得た事情について十分に立証し、かつ、その請求する経済的損害の額の合理性について十分に説明している場合において、侵害者が権利者の賠償請求を覆す反証を提出することができないときには、人民法院は、権利者の主張と提出された証拠に基づいて、侵害者が侵害により得た利益を認定することができる。

3.「ペン」の意匠特許権侵害事件

上海晨光文具股份有限公司と得力集団有限公司、済南坤森商貿有限公司の間で争われた意匠特許権侵害紛争事件〔上海知的財産法院(2016)滬73民初113号民事判決書〕

意義:本件の原告、被告は、いずれも国内で影響力のある文具生産業者で、本件製品は、日常生活においてよく見られるペン等の製品であり、その意匠の侵害判断には主観的要素が大きく影響する。本件では、意匠の類似判断をする上での客観的基準について検討し、侵害と訴えられた意匠と権利付与された特許の類似性を考慮しつつ、その相違性も考慮して、同一のデザインの特徴と相違するデザインの特徴の全体的な視覚的効果に対する影響をそれぞれ分析して、認定の結論を導き出している。本件の判決は、生活上よく見られる製品の意匠の類似性を認定する上で参考的意義を有している。また、本件では、意匠特許の特徴に応じて、具体的事情を勘案し、法定賠償額と被告の負担すべき原告の弁護士費用の金額を認めていることも、リーディング作用を有している。判決の後は、双方とも判決に服して紛争は終結し、被告は、効力の生じた判決を自ら履行している。