2016年5月、北京市高級人民法院民事裁判第三法廷では、当面の知的財産裁判において注意すべき問題が総括、整理され、それぞれ特許、商標などの知的財産事件の裁判で関係する実体面・手続面における若干の問題について、最近施行された最高人民法院の司法解釈(二)と関連させて初歩的な見解が提起された。当該見解は、北京市内における知的財産裁判活動に対して直接に指導的な役割を果たすが、その内容は次のとおりである。

一.事件の技術的事実を明らかにする技術調査官等の役割を十分に発揮させるとともに、事件の審理における裁判官の主導的役割を強化

  1. 本法廷で2015年に第二審で判決が変更され、又は差し戻された事件について整理したところ、判決が変更され、又は差し戻された特許紛争事件の7割以上が技術的事実が明らかにされていない場合にいずれも関係することが判明した。そのため、事件に関係する技術的事実について十分に立証し、法廷審理の手続を通して十分に説明するよう当事者及びその代理人に奨励し、製品の現物及び模型を提出したり、PPTを作成し使用したりするなどの方法で、事件に関係する技術的な事項を十分に説明するよう当事者に奨励すべきであると考えられる。
  2. 技術調査官の職務上の役割を積極的に追求し、発揮させるようにすべきである。技術調査官は、法廷審理に参加して、事件に関係する技術的事実について意見を述べるとともに、合議法廷の評議に出席して技術的事項について意見を述べるが、その作成する技術審査意見は、一件書類の附属書類に含められ、当事者及び代理人には閲覧されない。しかし、明確にすべき点として、技術調査官は、訴訟活動を補助するにとどまり、技術的事実についてのみ支援を提供する存在であるにすぎず、侵害であるか否か、技術的特徴が同一・均等であるか否か、技術的解決手段が新規性・進歩性を有するか否か、明細書の開示が十分であるか否か、請求項が明細書に裏付けられているか否かなどの法的な問題については意見を述べることはできない。知的財産法院において技術調査官の意見に対する当事者の質問手続が検討されていることは、全市の人民法院さらには全国の人民法院の模範・参考となるだろう。

二.特許審決取消行政事件における具体的な問題

1.特許法、特許法実施細則、審査指南の新旧各法の適用について

法が過去に遡及しないのは基本的な原則である。特許出願書類の補正について、それが適法であるか否かの判断には、特許権付与の手続におけるか、或いはその後の無効審判の手続におけるかにかかわりなく、原則として、出願日(優先権がある場合には優先日)に施行されていた特許法及び同法実施細則が適用されなければならない。特許の三要件の判断については、この数年の事件の審理状況から見て、大多数の裁判官には新法・旧法の適用に誤りがあることは見られていない。個別事件の当事者が上訴に際して新法・旧法の適用の問題を主張することがあるが、第二審では、新法・旧法で条文の内容が実質的に変化しておらず、当事者の実体的権利が害されていないことを理由としてほぼいずれも判決が維持されている。

2.公知の常識の立証及び制限について

特許審決取消行政事件における公知の常識の証明責任について、審査指南では2つの場合に区別されている。実体審査及び拒絶査定不服審判の手続においては、職権により言及する公知の常識について立証するか、理由を説明する義務を審査官が負っている。無効審判の手続においては、公知の常識を主張する側の当事者が立証責任を負うべきこととされる。実務上現れる問題として、訴訟に持ち込まれる特許審決取消事件では、特許審判委員会が職権により言及する公知の常識に文献の裏付けがないことがある。事後的な手続である司法審査をする機関として、人民法院は、やはり行政機関の立証責任を強調しなければならない。十分に説明すべきであるにもかかわらず説明をしていないものや、立証すべきにもかかわらず立証されていないもので、行政の相手方の実体的権利に確かに影響し得るような審決については、法に基づきこれを取り消さなければならない。

明確にされるべき点として、公知の常識の認定にあたっては、当事者が主張するという原則を厳守しなければならず、当事者が公知の常識について主張していないとき、人民法院は、通常、公知の常識について自ら言及することをしてはならない。実務上、特許審判委員会が無効審判の手続において職権により公知の常識に言及して特許を無効とするケースがあるが、特許審判委員会の手法を一律に認めたり、請求主義に反するとして特許審判委員会の審決をすべて取り消すことは妥当ではない。このようなケースを処理する原則として、聴聞原則を満足していて、かつ、公知の常識についての言及によって特許権が確実に無効とされることになる場合には、「特許審判委員会が職権により公知の常識に言及することは請求主義に反する」と判決において指摘しなければならないが、行政効率と手続の空転を防止する観点から、人民法院は、個別事件ではこれを認めるべきである。しかし、聴聞原則を満足しないものについては、これを取り消さなければならない。

3.試験データの提出及び採用について

特許審決取消行政事件において、特許出願又は特許技術が既に十分な開示をされていることや進歩性を有することを証明するために、出願人又は特許権者が試験データを提出することがよくある。権利付与・無効審判の手続において当事者が提出する試験データについて、特許審判委員会が運用する基準は厳格なものであり、特に明細書において試験の証拠が提供されていない事件については、出願人及び特許権者からの不満を買っている。1993年審査指南では、明細書に具体的な技術的解決手段のみが記載されて、当該技術的解決手段が試験の結果に依存しなければ成立が証明されないにもかかわらず、試験の証拠が提供されていないものについては、当該特許は特許法の産業上の利用可能性に関する規定に適合しない、すなわち、特許法第22条第4項の規定に違反すると認定しなければならないとされていた。しかし、同審査指南では、出願人が発明の効果及びそれが実施可能であることを証明するために出願日の後に試験データ及び実施例を補充することが認められるとさらに規定されていて、これらの試験データ及び実施例は、明細書に記載されることはなくても、出願の証拠として出願包袋に入れられ、産業上の利用可能性を含む特許要件を審査官が審査する際の参考とされることがあった。2001年審査指南では、このようなケースが特許法の実施可能要件に関する規定に適合しない、すなわち、特許法第26条第3項の規定に違反するとみなされるべきとされ、1993年審査指南の上記規定は削除された。上記に述べた新法・旧法の適用問題がここにあるが、このようなケースを処理する原則として、1992年特許法及び同法実施細則並びに1993年審査指南に基づいて出願がされた特許、特許出願に試験の証拠が提供されていないものがあるときは、1993年審査指南に定める場合に適合するとして、出願人が発明の効果及びそれが実施可能であることを証明するために出願日の後に試験データ及び実施例を補充することを認めなければならない。進歩性判断において特許権者が補充する試験データについては、その有益な効果が明細書に明示的又は暗黙的に言及されていれば、その補充された試験データを受け入れなければならないが、その有益な効果が明細書に明示的にも暗黙的にも言及されていなければ、受け入れるべきではない。出願日の後に補充する試験データは、特許の先願主義と抵触し得るものであるため、試験データの補充要件を厳格に運用することが必要となり、対応する技術的効果が明細書に必ずいくからでも記載されていて、また、当該試験データが出願日の前の先行技術において既知の試験条件及び試験方法に従って創作的な労働を要することなく得られるものでなければならない。

三.特許民事事件における具体的な問題――最高人民法院により最近公布された司法解釈(二)に関連する問題

1.請求項の選択について

司法解釈(二)の規定によれば、特許が2項以上の請求項を有するとき、権利者は、訴状において根拠を明記して、侵害と訴えられる者がその特許権に係る請求項を侵害したことについて出訴しなければならず、訴状にこれを記載していないか又は記載が明らかでなく、釈明がされてもなお明らかにならないときには、訴えを棄却する旨の決定をすることができるとされている。しかし、注意すべきこととして、この規定は立件の要件についてのものではないので、人民法院は、立件の段階で原告が請求項を明らかにしていないことを理由として不受理にしてはならない。司法実務では、一部の特許権者は特許権の全面的な保護を求めようとして、すべての請求項を選択することがあり得るが、司法解釈の上記規定には、権利者がすべての請求項を選択する場合にどのように処理すべきかについて定められていない。原則として、請求項が少ない場合には、通常、権利者がすべての請求項を選択することを認めるべきであるが、請求項が多い場合や、又は引用関係が複雑な場合には、担当裁判官は、釈明権を十分に行使して、権利者が適切な請求項を選択するよう積極的に導かなければならない。このような場合に権利者がなおすべての請求項を選択することを強く求めるのであれば、北京市高級人民法院の2014年の『特許権侵害判定指南』第2条、第3条の規定に従って、独立請求項を権利の基礎として、その他の従属請求項については審理をしないこととし、合議法廷が無駄な作業をしないでよいようにしても差し支えない。結局のところ、独立請求項の保護範囲が最も大きいのであるから、侵害と訴えられた行為が独立請求項の保護範囲に入るか否かにかかわりなく、従属請求項に入るか否かまで引き続き審査することは必要でない。

2.意匠特許権侵害判断における「デザインの余地」の適��について

明確にすべき点として、司法解釈(二)の規定によれば、デザインの余地は、同一・類似の判断主体、すなわち、一般の消費者の有する知識水準によるものである。意匠が同一又は類似であるか否かを判断するに際しては、まず、製品のデザインの余地について考慮しなければならない。デザインの余地が大きくある意匠については、同一・類似性の判断は厳格な基準によるべきであり、デザインの余地が小さくしかない意匠については、同一・類似性の判断は緩やかな基準によるべきである。デザインの余地のついての証明には、各当事者が事件に関係する製品の先行デザインを提出して判断することが必要となり、また、製品の機能、用途も考慮されなければならない。判決書には、デザインの余地の大小について裁判官が心証を形成した過程が反映されるか、開示されていなければならない。要約すると、デザインの余地を適用して侵害を構成するか否かを判断することが事件の審理における考え方・手法であることに留意すべきである。

3.間接侵害の認定について

司法解釈(二)には間接侵害について規定されているが、特許法にいうところの間接侵害は「幇助、教唆」をする行為であるして、権利侵害責任法第9条の規定を充足しなければならないとされている。権利侵害責任法第9条第1項には、「他人を教唆、幇助して権利侵害行為を実施させたときは、行為者と連帯責任を負わなければならない」と規定されているが、つまり、特許法にいうところの間接侵害は通常、直接侵害を前提とすべきものであり、間接侵害者は、直接侵害者と共同侵害を構成していなければならない。権利侵害責任法第9条の法理の基礎によれば、間接侵害者には、主観的な故意がなければならない一方、直接侵害者は、過失であっても故意であってもよいが、いずれについても権利者が立証責任を負担する。また、直接侵害者が権利侵害を構成すると既に判定されたことを証明する証拠を特許権者が有しない場合には、その認定する間接侵害者のみを被告とすべきではなく、その認定する直接侵害者と間接侵害者を共同被告としなければならない。明確にすべき点として、既に先の効力を生じた裁判で権利侵害を認定された直接侵害者を共同被告としないでもよい場合を除き、先の裁判で権利侵害を認定されていない直接侵害者については、間接侵害者と共同被告としなければならない。