建設契約において譲渡は日常的に生じるものであり、よってその 法的効果を理解しておくことは重要です。豪ニューサウスウェールズ 州最高裁判所が先般審理したTzaneros Investments Pty Ltd v Walker Group Constructions Pty Ltd事件 1では、請負者が付与 した契約上の保証に基づく利益の譲渡を受けた当事者が、瑕疵が 生じた結果、当該保証に違反があったとして請負者を訴えました。 請負者は、工事の瑕疵を認めたものの、それらの瑕疵は譲渡の対象 範囲外であるとして、譲受人に対する責任を負わないと主張しました。

契約に定められた権利の譲渡

端的に言うと、契約の譲渡とは通常、契約当事者(譲渡人)から第三者(譲受人)に対する、 ひとつまたは複数の契約上の権利に基づく利益の移転を伴います。譲渡により、第三者は、 当初から契約当事者であったかのように契約の相手方当事者に対してその権利を執行する ことができるようになります。この点以外では、当初の契約当事者間の契約は全面的に効力 を維持します。

契約上の権利が譲渡され得る理由は、幾つか挙げられます。例えば、施主が設計および 建設を発注したインフラを売却する際に譲渡が検討されることは多く、適切に行われれば、 新しい施主は、契約上の権利に関して、元の施主と同じ権利(設計、建設および目的 適合性に関する保証など)を有し、また違反があった場合にはそれらの権利を追求すること が可能となります。これは、(隠れた)瑕疵があるケースでは特に重要となり得ます。

Tzaneros Investments Pty Ltd v Walker Group Constructions Pty Ltd 事件

本件は、Sydney Ports Corporation が所有する土地(「本件土地」)におけるコンテナ・ ターミナルの建設をめぐるものでした。2003 年、本件土地の賃借人であった P&O Trans Australia Holdings Ltd (「P&O」)は、Walker Group Constructions Pty Ltd (「WGC」) との間で、5 棟の倉庫の設計・建設および関連工事(5 棟の倉庫の間とその周辺に舗装 道路を敷設するなど)について契約を締結しました(「本件 D&C 契約」)。

本件 D&C 契約において、WGC は、施工および目的適合性の水準について一定の保証 を付与しました。また、本件 D&C 契約では、同契約に基づく一切の権利または利益に ついて、いずれの当事者も、相手方当事者の承諾なく譲渡することはできない旨が規定 されていました。

工事が完成した後、本件土地における P&O の借地権が Tzaneros に移転され、P&O と Tzaneros との間で、本件 D&C 契約に基づき WGC が付与した保証を譲渡する趣旨の 捺印証書(Deed)が交わされました。WGC は、以下の条件をもって Tzaneros へ保証を 譲渡することに同意しました。

  • “…[WGC は、]売却日より、本件契約に含まれる建築保証の利益が Tzaneros Investments Pty Ltd に移転することを…ここに認める。”
  • “…本件契約第 9.1 条に従い、Walker Group Constructions は、売却日より、建築 保証が Tzaneros Investments に譲渡されることにつき、ここに同意および承諾 する。”

ところが、舗装道路が敷かれた後に亀裂や剥離が現れ始め、訴訟が提起された頃まで には、舗装道路の一部は補修され(これについて Tzaneros は、補修が不十分であると 主張)、また一部については、やり直し工事が行われました。

譲渡された保証に基づく Tzaneros の請求

Tzaneros は、本件捺印証書における譲渡の対象であるとする契約上の保証について 違反があったとして、ニューサウスウェールズ州最高裁判所において訴訟手続を開始し、 当該瑕疵の結果として、WGC その他複数の当事者らに対して 1500 万豪ドル近くに上る 損害賠償を請求しました。契約上の保証に基づく利益が譲渡されたことにより、Tzaneros は WGC に対して請求を起こすことができるのかという点が、主な争点となりました。

当事者らの主張

WGC は、コンクリートの舗装道路に瑕疵があり、よって、本件 D&C 契約において付与 された保証に違反が生じたことは認めました。

しかし、WGC の主張によれば、(保証違反に係る)訴因は譲渡が有効となる前に発生して おり、譲渡の条件はかかる訴因を対象に含むほど広義に及ぶものではありませんでした。言い換えれば、本件捺印証書が締結される前に 保証違反があった場合には、当該保証に基づいて訴訟を提起する権利は Tzaneros には譲渡されておらず、(その権利は)本件 D&C 契 約における当事者本人であった P&O の元に残っていると主張したのです。

これに対し、Tzaneros の主張は、譲渡はそのような形で制限されておらず、譲渡の効力発生日より前に発生したのか否かにかかわりなく、 本件 D&C 契約に基づく保証違反を理由として WGC を訴えることができるというものでした。

判決 ボール裁判官は、まず譲渡の条件について検討し、本件捺印証書は、「受益権所有者である譲渡人は価値ある対価をもって...譲受人 に対し、本件建築保証に基づく利益の全てを無条件に譲渡する」(太字は筆者強調)と規定している旨を指摘しました。

同裁判官は、本件捺印証書における譲渡に関する規定について、P&O と Tzaneros が本件捺印証書を締結したのは道路に亀裂が生じ ていたことを認識していた時期であり、保証違反を理由として WGC に対し請求がなされることを想定していたという背景に鑑みて解釈 されなければならないと認定しました。さらに、同裁判官は、「本件建築保証に基づく利益の全て」という文言の通常かつ自然な意味には、 譲渡日より前に生じた違反について訴訟を提起する権利が含まれると結論付けました。同裁判官の見解は、もし当事者らが譲渡の効力

発生日より後に生じた違反に譲渡を限定することを意図していたならば、「当事者らはそのことについて具体的に言及したであろう」という ものでした。

WGC は、そのような広義の条件で譲渡に同意したものではないと反論しました。具体的には、本件レターにおいて譲渡への同意は「売却 日より(from the sale date」付与されたと規定していることに依拠しましたが、この主張は、ふたつの理由により退けられました。同裁判官 は、まず、当該同意は譲渡の対象範囲に影響を及ぼすことができないとの見解を示し、「W GC は、譲渡に同意したか同意しなかったかの いずれか一方」であり、本件レターが、本件 D&C 契約の一般条件第 9.1 条で義務付けられている同意として作用することは明らかである と認定しました。次に、本件レターを適切に解釈すれば、「売却日より」という文言は「譲渡の対象範囲に関する限り、同意について制限を 課していると解釈」することはできず、その日付はむしろ譲渡の効力が生じる日付を特定していると解釈されるものである、と判示しました。

これに基づき、同裁判官は、本件譲渡の効力が生じた日付より前に生じた契約上の保証事項に係る違反について、Tzaneros は WGC を訴えることができると判示しました。保証違反を理由とした WGC に対する Tzaneros の請求は認められ、損害賠償の支払が命じられ ました。

結語

ニューサウスウェールズ州最高裁判所は、譲渡と同意のいずれについても、譲渡後に生じた訴因に限定されないとの認定を下しました。 本件の譲渡には広い解釈が採用されたのです。

本件の結果は、譲渡と同意の条件とともに、背景事情にも左右されました。実際のところ、そうした要因に照らせば、本件における譲渡が 広く解釈されたことは驚くようなことではないかもしれません。それでもなお、本件は、譲渡の対象範囲について当事者が何らかの制限を 加えたい場合、それが明確に特定されなければならないこと、また、同意を検討および付与する際には特に慎重にならなければならない ことを改めて注意喚起させられる重要な事例であると言えるでしょう。