2016年5月11日、オバマ大統領が2016年営業秘密保護法(DTSA)に署名した。同法は、営業秘密の不 正流用に対する救済手段として、連邦裁判所における民事訴訟を初めて認めたものである。

DTSAは、2012年外国及び経済スパイ罰則拡大法により改正された1996年経済スパイ法

を、再度改正するものである。これらの法により、DTSA以前から、営業秘密の窃取は連邦犯罪となる 可能性があったが、DTSA以前は、連邦司法長官による差止め以外には連邦民事訴訟は認められていな かった。DTSAは、営業秘密の不正流用に対する連邦法による請求原因を認めるものであり、現実の損 害の賠償、差止め、懲罰的損害賠償という一連の救済手段を認めるものである。

以下において、DTSAの重要な点について記載し、また、営業秘密の保有者に対する幾つかの注意点も 述べる。DTSAに関する当事務所の論文全体(英語のみ)は、こちらを参照されたい。

州法との関係

DTSAの制定により、営業秘密の不正流用に対する新たな対抗手段が創設された。しかし、他の知的財 産を保護する他の連邦法と異なり、DTSAは、長年に渡り排他的に営業秘密に関する民事訴訟を統治し てきた州法に広く優先するものとはされていない。

DTSAが、既存の州法(営業秘密の請求権に関するものの統一営業秘密モデル法に基づく各州法により 認められなかった州慣習法を含む)とどのような関係に立つのかは、将来的な訴訟により明らかにさ れていくと考えられる。また、連邦法よりも州法のほうが営業秘密に広い保護を与える場合もあり得 る。そこで、営業秘密の保有者は、非開示契約を作成したり営業秘密権を行使したりする際には、適 用法について注意深く検討する必要がある。

DTSAの及ぶ範囲

DTSAは、営業秘密の「保有者」による、営業秘密を不正流用した者に対する提訴を認めているが、こ れは、「当該営業秘密が、州際通商又は外国との通商において利用されているか又はそのような利用 を目的とする製品又はサービスと関連する場合」に限られる。DTSAの適用範囲についてのこの制限 は、全米又は世界規模で流通する製品やサービスに関連して営業秘密を利用する大企業にとっては大 きなハードルとはならないと考えられるが、顧客リストや価格情報等の営業秘密を保護しようとする 地元の企業にとっては、依然として州法が営業秘密を保護する唯一の方法となる可能性がある。

重要な点として、DTSAは、米国外で発生した行為の少なくとも一部については適用範囲としているよ うに見受けられる。すなわち、米国市民又は米国企業が被告である場合や、営業秘密に「関連する行 為が米国で行われた」場合には、DTSAの適用範囲とされている。

内部通報者の保護

DTSAは、営業秘密が不正流用されたと考えられる場合の通報を促進すべく、例外を規定してい る。DTSAが州法に優先する点として、DTSAは、(1)「違法行為の疑いについて報告又は調査するとい う目的のみにより」政府公務員又は弁護士に対して秘密裏に営業秘密を開示した場合、又は、(2)「訴 訟その他の手続において」一般公開されない状態で「提出された訴状又はその他の文書」において営 業秘密を開示した場合には、「いずれの連邦又は州の営業秘密法」における民事責任及び刑事責任か らも免除される、としている。

また、雇用主は、「営業秘密その他の機密情報の利用に関する契約において、この免責について」通 知しなければならない、とされている。重要な点として、内部通報者保護との関連では、DTSAにおけ る「従業員」の定義の中には「請負人や雇用主のコンサルタントとして仕事を行う個人」も含まれ る。

雇用主は、2016年5月11日以降に署名又は改訂される契約書において適切な通知条項を含めるように、 会社の営業秘密やその他の機密情報の利用に関する契約書のフォームを改訂する必要がある。また、 機密情報や営業秘密情報の利用に関する通報について規定した従業員マニュアルや社内規程も改訂す る必要がある。

DTSAによる一方的差し押さえ条項

DTSAのハイライトは、営業秘密の不正流用に対抗又はその範囲を制限するための手続的なメカニズム が含まれる点である。DTSAにおいて、営業秘密の保有者は、宣誓供述書又は一方的手続により提出さ れた訴状を通じて、連邦裁判所に対し、「訴訟の対象となっている営業秘密の伝搬や流布を防ぐため に必要な」財産の差し押さえを命じるよう、申し立てることができる。すなわち、DTSAにより民事差 し押さえ命令を出す権限が連邦裁判所に与えられているが、連邦裁判所は常にそのような差し押さえ 命令を出さなければいけないわけではなく、裁判所の裁量は、「具体的な事実」から数多くの特定の 要件が満たされたと「明らかに」判断できるような「特別な状況」に限定される。

必要不可欠な開示

DTSAは、一部の州法と異なり、開示が必要不可欠である(特定の状況において、営業秘密の不正流用 が不可欠である)との概念に基づき連邦裁判所が差止め命令を出すことは禁止している。特 に、DTSAは、「ある人が知っている情報にのみ」基づいて「当該人物と雇用関係に入ることを禁止」 する内容の差止め救済は認めておらず、差止め命令は「営業秘密の不正流用のおそれについての証 拠」に基づいて出さなければならない、としている。このような「営業秘密の不正流用のおそれにつ いての証拠」がどのようなものかについては、今後の訴訟において問題となると考えられる。

営業秘密の不正流用に対する救済手段

営業秘密の不正流用に対するDTSAにおける救済手段は、統一営業秘密モデル法で認められていたもの と類似しており、差止め命令、現実の損害に対する賠償、不当利得の返還、他の救済手段の代替とし ての合理的なロイヤルティー等があり得る。懲罰的損害賠償及び弁護士費用の賠償は、故意かつ悪意 による不正流用について認められるが、懲罰的損害賠償は認められる損害額の2倍を上限とする。

民事差し押さえ条項等の手続的な側面がどのように実務上機能するかについては今後明らかになって いくものではあるものの、DTSAは、営業秘密の不正流用に対抗する米国法を強化する重要なものであ る。また、DTSAは営業秘密に関する州法に優先するものではないため、DTSAにより法が統一される わけではなく、また、営業秘密の保有者に対し営業秘密が不正流用された場合にどこで提訴するのが 良いかについて簡潔な答えが提示されたわけでもない。営業秘密の保有者は、営業秘密権をどのよう に保護するか、どこで行使するかを決定するにあたって、依然として、DTSAと合わせて関連する州法 についても検討する必要がある。