米国の反トラスト法分野においては、価格協定や談合 等の「カルテル」行為に関与した会社従業員のいわゆ る「心理」について、依然として関心が高い。世界各 国の反トラスト規制機関は、自動車部品等の業界での 日本企業に注目しているところ、米国弁護士は、日本 企業やその従業員の心理について理解する必要があ る。米国での反トラスト弁護士による最近の会議での パネル・ディスカッションは、そのような心理につい てさらに学ぶべきところが多いことを示している。

2015年米国法曹協会反トラスト「春季会合」における パネル・ディスカッションは、刑事反トラスト代理弁 護及びコンプライアンスに関するアドバイスを行う弁 護士にとって、非常に興味深いものであった。当該パ ネル・ディスカッションは、「カルテルを行った個人 の心理」との表題のものであり、「カルテルの被告人 となった個人の心理、共謀行為において文化や価値観 がどのような役割を果たすか、代理・インタビュー・ 個人クライアントとのやり取りにおいてどのような影 響を及ぼすか」についての議論であるとされていた。 米国及び日本の著名な反トラスト弁護士、米国政府の 反トラスト検察官、元FBI「行動分析ユニット」所属 エージェントがパネリストとして参加していた。

FBI行動分析ユニットは、刑事心理について研究す るFBIエージェントから成るユニットである。このユ ニットは、米国ドラマ「クリミナル・マインド」 や、1991年のハリウッド映画「羊たちの沈黙」で有名 となったものであり、いずれにおいても、連続殺人犯 の逮捕にあたりプロファイリング技術を利用す るFBIエージェントが描かれている。

刑事反トラスト法の世界では、被疑者は米国上院議員 の子女を誘拐したり、暗い地下室に誰かを監禁したり しているわけではない。被疑者は、会社内で働く内勤 者であり、営業担当者、営業マネージャー、マーケ ティング・ディレクター等である。彼らは、業界の市 場トレンドのトップにい続けようとし、競合他社の活 動や価格について研究しており、時に熱心に研究しす ぎてしまう。

パネリストの1人を務めた元FBIエージェントのプレゼ ンテーションは、経済的問題やギャンブル・アルコー ル・性への依存等、様々な心理的動機について説明す るものであった。しかし、このプレゼンテーション は、これまで当職らが経験してきた反トラスト世界に 関連するものとは理解し難いものであった。これまで 当職らが反トラスト事案で代理してきた個人従業員の 中に、金員への執着に動機付けられていた人はおら ず、共謀行為に参加したりこれに気付かない振りをし たことで、さらなる金員や個人的な便宜を得たものは いない。また、何らかの特殊な依存症により動機付け られていた人も、当職らが知る限りいない。

当職らが取り扱ってきた事案での動機は、会社の利益 のためであった。カルテルを行う者たちが「優先権の 尊重」と呼ぶ形式において、会社の上級社員が競合他 社と共謀することを少なくともある程度は望んでいる ことにつき、従業員が明確に理解している事案もあっ た。優先権の尊重という体制において、企業は、伝統 的・歴史的に自社のものであった事業については懸命 に確保しようとするものの、競合他社が「優先権を有 する」と考えられる事業については「取りに行かな い」。

「優先権」の概念は、米国だけでなく、日本、欧州、 その他の地域においても有害なものである。しかし、 「優先権」は、非常に古くかつ確立された概念であ り、時間とともに形成され反トラスト調査との関係で 再度注目されてきたものである。あるとき、日本企業 の個人従業員に対して、競合他社と価格を共有し、自 社は自身の事業を確保しつつ競合他社が他の事業を確 保できるように入札した理由について質問した際、当 該従業員は、「私たちは村社会にいるからだ」と回答 した。当該従業員によると、島国である日本という村 において、ある業界の他者は、互いに殺し合うために 存在しているのではない。誰もが存続し繁栄できなけ ればならないのである。

パネリストの1人であった日本の弁護士は、日本の 「カルテルを行う者たち」は、自分の仕事をしようと している一般的な人たちに過ぎない、と説明するのが 最も公平な言い方である、と述べ、簡潔かつわかりや すく「カルテルを行う者たちの心理」について説明し た。この意味で、「カルテルを行う者たち」 は、FBI行動分析ユニットが研究するタイプの人とは 大きく異なる。また、会社の金員を横領して自分のも のとするような米国の「ホワイトカラー」の被疑者と も大きく異なる。当職らの認識では、「カルテルを行 う者たち」は、雇用者、上司、同僚に対して極めて忠 実であり、家族としての絆に近いものを彼らと共有し ていた。

自動車部品調査のような大型の反トラスト事件が発生 して、日本でコンプライアンスを強化するよう努力す ることは、「クリミナル・マインド」を根絶するため ではない。むしろ、会社の上層部及び従業員が、反ト ラスト規制と非常に高額の民事訴訟の脅威を理解し、 ビジネスリスク・個人的リスクのいずれからしても取 り得ない、ということを理解するような、社内文化を 促進するためのものである。会社とその従業員は、常 に会社の利益のために行動する。自動車部品事件やそ の他の著名な反トラスト調査事件が示すように、競争 法遵守は、常に会社の最良の利益になるものである。