近年人民元が高騰しており、国内でも人民元を指標としたTRF商品の売買が盛んになっています。しかし2015年8月以降人民元が突然上昇から下落に転じ、多くの投資家が多額の損失を被ることになりました。さらに投資家に支払能力がない場合に銀行が巨額の損失を被ることになったため、金融マーケットに大きな混乱が生じ、また投資に関する紛争も続出しました。

本稿では、金融監督管理委員会(以下「金管会」といいます)がTRF危機に対応するために採用した監督措置の内容、特に「銀行がデリバティブ金融商品に関する業務を行う際の内部作業制度及び手順の管理方法」の2016年1月30日付改訂の要点を紹介します。

一、TRFとは何か

TRFはTarget Redemption Forwardの略称で、ターゲット償還条項付先物取引というオプションの性質を有する複雑でハイリスクのデリバティブ金融商品です。国内のTRFの指標は一般的に米ドルと人民元の間の為替レートで、100万ドルを取引の閾値としています。人民元が上昇した場合、顧客が得られる利益は為替レートの差に元本を乗じたものとなりますが、銀行は通常「中止価格」を定めています。人民元の為替レートが「中止価格」に至った場合、契約は中途解約されますので、顧客が得られる利益には一定の上限があることになります。一方、人民元が下落した場合、損失は為替レートの差に元本を乗じた額に限られず、レバレッジとしてさらに一定の倍率を乗じた額が損失となります(国内でよく見られるレバレッジは2倍です)。さらに、契約終了まで追加保証金を納付する必要があり、納付しなかった場合、ロスカットされ精算されます(いわゆる「断頭」)。このような方式が採用されているため、TRF商品には利益は有限だが損害は無限であるという特徴があります。

二、TRFの監督措置

金管会は、2015年初め銀行が行っているTRF取引に多くの欠陥があることを認識し、その後程なく9つの銀行に対して過料の支払や取引の停止を命じました。さらに金管会は、銀行が行っている取引の中心がTRF商品からDKO商品(Discrete Knock-Out 欧州式のノックアウト条項付先物取引)に移っているものの、DKO商品は実際は高レバレッジの為替オプションであり、TRFに劣らないリスクがあることを認識しました。そこで金管会は2015年6月に監督強化の第二段を実施し、「銀行がデリバティブ金融商品を扱う際の留意事項」を廃止して、「銀行がデリバティブ金融商品に関する業務を行う際の内部作業制度及び手順の管理方法」(以下、「本規程」といいます)を策定しました。本規程では、「複雑でハイリスクの商品」の定義が追加され、また金融合同信用調査センターによるチェックシステムが設けられるとともに、複雑でハイリスクな商品の損失の上限等についての監理措置が定められました。意外にも2015年8月に人民元の為替レートが大幅に下落し、TRF商品の規制が漏れていた部分が次々と発見され、多くの投資家が追加支払義務を負い、「断頭」の状況になってしまいました。金管会は、銀行が取引する複雑でハイリスクのデリバティブ商品の監督を確実に強化するために、2015年10月から銀行事業者や銀行協会との意見交換を何度も実施し、共同で管理システム強化のための具体的措置を策定し、2016年1月30日に本規程を改訂し公布しました。

三、 主要な改訂事項

(一)  専門法人の資格要件を総資産5000万台湾元から1億台湾元へ引き上げ、専門法人顧客になる要件として銀行に対する書面での申請を義務付け(第3条第1項第3号)

金融市場の急速な発展により、各種の金融商品の複雑性やリスクが大幅に増加したため、専門法人顧客の資格条件が厳格化されました。

 一方、もともと専門顧客であった顧客が新しい資格条件を満たさない場合に既存の取引の存続について疑義が生じないよう、今回の改訂の施行前に銀行が総資産1億台湾元未満の専門顧客とデリバティブ金融取引を行いこれが存続している場合、元々の条件に従って期限到来まで継続し、または精算することができると規定されました。また、かかる顧客が全体のリスクを軽減するためにさらに取引を行う場合、専門顧客の身分で継続して銀行と取引できるものの、契約の期限は元の契約の残余期間を超えることはできないとされました(第3条の1)。これによって、銀行が旧契約を新契約に変えることにより「債務がさらに債務を生み」、顧客がさらに大きなリスクを負担することがないようにしました。

(二)  銀行が自然人やリスクヘッジが目的ではない一般法人と複雑でハイリスクな商品の取引をすることを禁止(第25条の1第1項)

複雑でハイリスクの商品の設計の複雑性を考慮し、(1)自然人の顧客、或いは(2)リスクヘッジの目的でない一般の法人顧客を取引の相手方とすることができないことが明文化されました。

(三)  為替に関する複雑な商品契約は1年を超えてはならず、価格の比較又は精算の期は12期を超えてはならず、また損失の上限は想定元本の3.6倍とする旨規定(第25条の1第2項第1号)

 為替市場は変動幅が大きく、かつ金融の状況は短期間で大きく変化するものであることを考慮すると、1年間を超える複雑でハイリスクの商品のリスクを予測することが困難であることは明らかであることから、明文でこれを禁止することとしました。また、TRFの損失が無限であるという特性が今回のTRF危機の主な原因になったので、今回の改訂により複雑でハイリスクの商品について損失の上限額を定めることが要求されることになりました。この上限額は想定元本額の3.6倍を超えることはできません。これによって、TRFやこれに類似する商品が損失が無限であるという問題点を解決しました。

(四)  銀行が顧客に与える取引限度額の上限を確認可能な顧客の取引資力の2.5倍とする旨規定。(第20条第4項及2016年2月1日金管銀外字第10550000351号書簡)

顧客が負担するリスクがそのリスク負担能力を超えることがないようにするために、今回の改訂によって銀行に取引限度額の管理システムを作ることが義務付けられました。そして主務官庁は、取引限度額の上限を確認可能な顧客の取引資力(顧客及び連帯保証人の当該銀行における預金額、有価証券及びデリバティブ金融商品のために既に支払った保証金の額)の2.5倍と定めました。

(五)  専門機関投資家及び純資産が大きい法人のいずれにも該当しない顧客から取引開始時に保証金を徴収することを義務付け(第20条第5項及び2016年2月1日付金管銀外字第10550000352号書簡)

顧客が資金を出さずに大量に投資できることにより、取引額が往々にして実際にリスクヘッジに必要な額を超過することになるのを防ぐために、専門機関投資家及び純資産が大きい法人のいずれにも該当しない顧客については、銀行が各取引の開始時に顧客から保証金を徴収することを義務付けることとしました。そして複雑でハイリスクの商品については、各取引の開始時の保証金の額は想定元本の総額の2パーセントを下回ってはならないとされました。商品の期間が1年間を超え、かつ実質的にプットオプションを含む為替デリバティブ商品については(単純な為替先物取引、為替スワップ取引及びクロスカレンシー金利スワップ取引を除く)、各取引の当初の保証金の金額は想定元本の総額の5%を下回ってはならないとされました。ただし、銀行のために猶予期間が設けられており、前述の取引限度額及び当初保証金の額についての書簡の施行は2016年3月1日とされています。そして取引限度額については、銀行が施行日前に顧客と取引限度額を約定し、施行日において存続している場合、原契約において約定した取引限度額に従い期限まで取引を続けることができます。また、保証金の部分については、銀行が施行日前に既に行っていた顧客とのデリバティブ金融商品取引で施行日まで存続しているものについては、銀行と顧客がもともと約定した担保または保証金の徴収、追徴の規定に従って期限まで取引をすることができます。

(六)  一方、台湾の銀行の海外支店の主要な顧客は海外の顧客であると考えられること、海外支店は現地の法令、市場のルール及び現地の事業者の公平な競争を尊重する必要があることを考慮して、今回の改訂後の第2条の1において、本規程が原則として海外の支店には適用されない旨定められました。但し、金管会が指定した海外支店については、本規程に従って取引に関する情報を報告することとされてます。

金管会はこれらの措置によって、全面的にTRFなどの複雑でハイリスクなデリバティブ商品の管理の密度を高くました。銀行の実際の商品の販売の方針及びリスク管理制度への監督を強化することにより、投資家の利益及び銀行の業務の健全性が確保され、そして金融市場の合理的な秩序が確保されることが期待されています。