英国仲裁人協会が考案した「ロンドン原則(London Principles)」 の条件を数多く満たすオーストラリアは、書面上は魅力的な国際 仲裁の仲裁地です 1。しかし、実務では、仲裁地をオーストラリアと する国際仲裁の件数は比較的少なく、アジア太平洋地域において 仲裁地として人気の高いシンガポールや香港などと比べるとその 差は歴然です。

しかし、2015 年民事法・司法関係法改正法(Civil Law and Justice Legislation Amendment Act of 2015)および 2015 年 民事法・司法(一括改正)法(Civil Law and Justice (Omnibus Amendments) Act 2015)により、オーストラリアの 1974 年国際 仲裁法(International Arbitration Act 1974、以下「IAA」)の重要 な項目が最近変更されました。これらの変更を総合すると、オースト ラリアの国際仲裁地としての人気が高まる可能性があります.

2015   年民事法・司法関係法改正法(連邦法)

IAA 第 21 条の本来の文言は、UNCITRALモデル法の適用を排除またはオプト アウトすることを当事者らに認めるものであるというのが、一般に受け入れられた解釈でした 2。しかし、2010 年 7 月に第 21 条が改正され、 仲裁地をオーストラリアとする国際仲裁にはモデル法が排他的に適用されるようになったことで、任意に選択する能力は除外されました 3。 ところが、うっかり見過ごしてしまったのか、2010 年 7 月 6 日の改正前に成立した仲裁合意については、この改正が遡及的効力を有する かどうかが明確にされていませんでした。「ブラックホール問題」と揶揄されるこの不確実性は、2015 年 8 月 18 日に施行された 2015 年民事法・司法関係法改正法(Civil Law and Justice Legislation Amendment Act 2015)により、現在は解決しています。同法の附則 2 では、第 21 条に実は遡及的効 力があり、仲裁合意が成立した日が 2010 年 7 月 6 日当日またはその前後であるかを 問わず、2015 年 8 月 18 日以降に開始された仲裁に適用される旨が明示されています。

2015    年民事法・司法(一括改正)法案(連邦法)

2015 年 9 月 15 日、オーストラリア議会は、2015 年民事法・司法(一括改正)法案(Civil Law and Justice (Omnibus Amendments) Bill 2015、以下「本法案」)を可決しました。 本法案は以下の 5 項目について IAA を改正するものです。

  1. ニューヨーク条約の非締約国で下された仲裁判断の執行を可能にすること
  2. 仲裁合意の一当事者が無能力者であったと主張して執行を拒否することを仲裁 判断の債務者に認めること
  3. 秘密保持の制度をオプトアウト方式に変更すること
  4. 1989 年より前に成立した仲裁合意にモデル法を適用すること
  5. 第 II 部の表題を「外国仲裁合意および判断の執行(Enforcement of Foreign Arbitration Agreements and Awards)」に変更すること

本法案の説明資料によると、これらの改正は、「オーストラリアにおける仲裁をより公正 かつ効率的にし、民事上の権利義務について公正な独立した決定を受ける権利を推進 すること」を目的としています。

(i)   ニューヨーク条約非締約国で下された仲裁判断の執行

本法案により、ニューヨーク条約 4 の非締約国で下された仲裁判断について、かかる仲裁 判断を執行しようとする者がその時にオーストラリアまたはニューヨーク条約締約国に本拠 を有するか通常居住していない限り執行できない旨を定めたIAAの第 8 条第 4 項が 廃止されます。

この改正により、仲裁地にかかわらず、オーストラリアにおいて外国仲裁判断を執行できる ようになります。また、本改正は、仲裁判断が下された時期を問わず、改正日以降におけ る外国仲裁判断の執行に適用されます。

(ii)  無能力を理由とした外国仲裁判断の執行拒否

さらに、本法案により、仲裁判断の債務者が、その者に適用される法に基づき、仲裁合意 が成立した時点において無能力者であった場合に外国仲裁判断の執行を拒否すること ができる旨を定めた IAA の第 8 条第 5 項が改正されます。

この改正により、仲裁合意のいずれかの当事者が、その当事者に適用される法に基づき、仲裁合意が成立した時点において無能力者で あったことを理由に、外国仲裁判断の執行を拒否することが認められるようになります。この改正により、第 8 条第 5 項の内容は、ニュー ヨーク条約の第 V 条第 1 項(a)とモデル法の第 34 条第 2 項の主旨(いずれも仲裁判断の債務者が無能力者であったことに限定して いない)により近いものとなります。

(iii) 秘密保持の「オプトアウト」

現在、IAA の秘密保持規定は「オプトイン」方式で機能しています。本法案は、これを「オプトアウト」方式に変更し、両当事者らが明示的に 除外しない限り、IAA 第 23C 条と第 23G 条の秘密保持規定が適用されるようにするものです。 この展開は、概ね歓迎されるものと思われます。本法案の説明資料に記載されているとおり、仲裁と訴訟を比較した場合、仲裁手続に おけるプライバシーと秘密保持が仲裁の主な利点として挙げられることがよくあるからです。

(iv) IAA 第 III 部の適用可能性

本法案はまた、1989 年の改正で導入された IAA 第 30 条(IAA 第 III 部の適用に関する条項)を廃止するものです。IAA 第 21 条と同じ ように、2010 年の改正以来、第 30 条の適用範囲が不明確でした。第 30 条を廃止することによりこの不確実性がなくなり、1989 年より前 に成立した仲裁合意が全て現行の IAA 第 III 部に準拠するようになります。

v)  「外国仲裁合意および判断の執行」

最後に、IAA 第 II 部の表題が「外国判断の執行(Enforcement of Foreign Awards)」から「外国仲裁合意および判断の執行 (Enforcement of Foreign Arbitration Agreements and Awards)」へ変更されました。この変更により、その内容がニューヨーク条約に 効力を生じさせるものであることが、より的確に反映されるというのが、その理由です。

結語

上述の法改正は、オーストラリアにプロジェクトや事業上の利害関係を有する日本企業(特に紛争解決条項においてオーストラリアを仲裁 地とする仲裁を定めている場合)に関係があります。これらの改正点は、オーストラリアを国際的なベストプラクティス(特に UNCITRAL モデル法)に沿うようにするもので、概ね歓迎されるものと言え、とりわけ秘密保持を望む当事者らにとって、オーストラリアをより魅力的な 国際仲裁地にする可能性が多分にあります。