1年余りの議論を経て、2016年7月28日にインドネシア特許法改正が国会を通過しました。2016年8月26日施行となるこの新しい特許法(改正法)、「特許に関する、2016年法律第13号」は、「特許に関する、2001年法律第14号」以来の10年以上ぶりの大改正となります。

改正法が国会を通過した後のスピーチにおいて、法務人権省は次のように述べました:本改正法は、国際的市場の競争にインドネシア国民が積極的に参加するために用いることのできる手段である。より良い特許保護はイノベーションを促進し、ひいては自国に有用な発明を生み出す。また、改正法により発明がより厚く保護されることで、国外在住のインドネシア人発明家たちがインドネシアに戻ってくることも期待される1

2001年改正法をさらに改正するにあたり、以下の点が考慮されました。

  1. インドネシアは人口が多く天然資源に恵まれた国である。これらの天然資源を活用するための技術を必要とする。しかしながら、インドネシアでは技術の進歩を十分に活用できておらず、そのためグローバル市場におけるインドネシアの競争力を高めることができていない。
  2. 技術の進歩によりインドネシアの発展を支えるためには、(a)公的・民間のR&D機関の設立、(b)天然資源の利用、(c)人的リソース及びITシステムの強化、(d)研究・技術の促進、および(e)戦略的分野における技術の活用、により国内のイノベーション・システムを強化する必要がある。
  3. 一部の先進国においては、競争力を高めるべく経済・技術分野における政策が協調している。これを考慮すると、これらの分野におけるインドネシアの政策が、技術の活用を促進し、自国の経済を後押しし、かつ自国の技術に報いるようなものでなければならない。
  4. インドネシアには莫大な遺伝子資源や伝統的知識があり、これらは発明家たちが発明をするにあたり頻繁に利用されている。したがって、インドネシアの遺伝子資源や伝統的知識を利用した場合には、そのことが特許明細書に明確に記載されるべきである。
  5. インドネシア政府は2001年改正法には国内・国際法のその後の発展と相容れない重要な点が幾つかあることを認めている。さらに、TRIPS協定における最も高い要求と整合していない重要な点も幾つかある。

上記の考慮に基づき、今回の改正法には以下の目的があります。

  • インドネシアの知財保護において最良のサービスを提供するための国家能力を最適化すること
  • 国際法精神を妨げることなくインドネシアの利権を促進すること
  • 国内の発明を促進して技術分野を強化することにより、経済的自立と自国の経済の活性化を図ること
  • 実用的な法的アプローチにより、国内の特許プラットフォームを構築すること

改正法の主な改正事項は、次のとおりです。

最も重要な改正事項は、第二医薬用途(second medical use)に関連する改正だと考えられます。改正法のもとでは、既知の物の新たな用途、あるいは既存の化合物の新たな形態(second useクレームおよびsecond medical useクレーム)は特許保護対象から除外されます。これにより、インドやベトナムといった他の幾つかのアジア諸国と同様になります。第二医薬用途の特許出願が頻繁に行われている製薬業界の出願人には影響があると予想されます。

また、改正法の下ではコンピュータ・プログラムのみにより構成される(consisting only of)方法に関する請求項は特許保護対象から除外されます。しかしながら、請求項発明が技術的効果(technical effect)を有し、かつ、 有形および/または無形(tangible and/or intangible)の問題を解決する場合は、特許可能な場合もあります。

さらに、特許権の効力の例外規定が改正されました。この例外規定の改正は、インドネシア国民が安価な医薬品を購入できるようにすることを意図した改正だと思われます。この改正事項も、製薬分野の出願人・特許権者に最も影響があると考えらえます。以下の行為が改正法により特許権の効力から除外されます。

  • (i) インドネシアで特許を受けた医薬品であって、外国で販売されているものを、輸入する行為。ただし、該輸入が上位の法律および規則に則って行われる場合に限る。
  • (ii) 特許消滅後の薬事承認または販売を目的として、特許が消滅する前の5年の期間内に、インドネシアで特許を受けている医薬品を製造(manufacture or production)する行為。

輸入に関する第一項は、インドネシアの上位の法律および規則に従う限り、並行輸入が認められることを明示するもののようです。例えば、ある医薬品がインドネシアで特許を受けていて外国で販売されている場合、インドネシアの上位の法律および規則に従って行う限り、インドネシア内の他社がその医薬品を輸入することが可能ということです。特許権者が該輸入に同意しているか否かには拘りません。

第二項は、Bolar条項として知られる、他の国にもみられる例外条項です。Bolar条項では、薬事承認の申請(インドネシアの場合はNational Agency of Drug and Food Control (BPOM))のための研究や試験は、特許期間の終了前の限られた期間(インドネシアの改正法では5年間)は特許を侵害することなく行うことができます。これにより、ジェネリック製薬会社が特許消滅に先立って準備をすることが可能になります。

長らく待ち望まれていた、特許維持年金に関する改正も行われました。改正前は、期限後3年まで維持年金の支払いが可能で、3年続けて維持年金の支払いがない場合には、特許は無効とみなされました。このように維持年金を支払わないことによるみなし消滅の場合には、特許は無効とみなされるにもかかわらず特許権者には支払わなかった分の維持年金を支払う義務が生じていたために、多くの特許権者にとって煩瑣な制度でした。大多数の国では維持年金が期限内に支払われなかった場合は特許権者に支払い義務が生じることなく特許は消滅する制度を取っていて、この制度はインドネシア独特のものだったと思われます。

改正後はインドネシアでも、期限内に維持年金が支払われなかった場合に特許が消滅します。期限終了の7日前までに申請を行うことにより、最長12月までの期限延長が可能ですが、期限延長を行う場合は、維持年金と同額の延長費用が発生します。改正前にあった、未払いの維持年金の支払い義務はなくなります。改正前後の過渡期の取り扱いについては現時点では正式に発表はありませんが、遡及効果はないものと思われます。すなわち、すでにインドネシア特許庁から、改正前の特許法のもとで未払い通知が発行されている特許については「支払い義務」は依然として残ると考えられます。

改正後の維持年金の支払い期限は次のようになります。最初の維持年金(出願から特許許可までの年の累積分)の支払い期限は特許許可通知から6月、2回目以降の維持年金は、各年の出願日と同じ月日にあたる日の1月前までに支払う必要があります(訳注:例えば、出願日が7月1日の場合、2回目以降の維持年金の支払期限は各年6月1日となります)。2回目以降の維持年金が期限までに支払われなければ当該特許は消滅したものとみなされ、未払い分の支払い義務は発生しません。最初の維持年金の場合には、みなし消滅は適用されません。

実用新案に相当する、簡易特許(simple patents)に関しては、改正により、従前の物の発明に加え、新規な方法および既存の方法を改善したものが保護対象に追加されました。

審査手順については、改正により実体審査請求または出願公開期間のいずれか遅い方から30月以内に特許可否の決定がなされるべき旨、規定されました。これは、36月以内との規定をしていた法改正前から、審査期間を短縮するものです。簡易特許に関しては、改正前の半分の期間、出願日から12月以内に特許可否の決定がなされるべき旨、規定されました。

さらに、拒絶理由通知の応答期間は3月で、延長は、請求により2月、延長費用を払うことでさらに1月の延長が可能となりました。期限内に拒絶理由通知に応答をしなければ、特許出願が取り下げられたものとみなされます。

今回の改正により、特許登録後の第三者による異議申立制度が導入されました。異議申立制度は、裁判所の管轄となる無効裁判よりも費用と期間を抑えることができます。

さらに、法改正により強制実施権の範疇に以下が追加されました:インドネシア特許登録のある医薬品を治療目的のために製造すること、およびインドネシア特許登録のある医薬品が当面インドネシア国内で製造できない場合に治療目的のために輸入すること。また、発展途上国または後発発展途上国からの要請により、インドネシア特許登録がありインドネシア国内で製造される医薬品を治療目的のために輸出することを認める強制実施権を設定することも可能となりました。

遺伝子資源または伝統的知識より生み出された発明については、出願時明細書に、その出所を明確かつ完全に記載することが義務付けられました。

改正法はまた、政府による特許の利用についての制度を明確化しました。特許技術が国家の防衛や保安に関する技術の場合(例えば、通信妨害、傍受、偵察、暗号化などの技術)、または緊急に公共の必要性のある技術の場合(医薬品やバイオテクノロジー製品であって、高価すぎると考えられる、または風土病の治療に必要なもの、あるいは農業関係で食の安全性のために必要な化学・バイオテクノロジー製品などが含まれる)に、政府が特許を利用することができます。類似の規定は、例えばイギリスなど多くの国にも存在します。

まとめ

改正法は、改正前特許法に存在した問題を是正しようとするもの��あるため(未払い維持年金の支払い義務など)、大多数の出願人および実務家にとっては望ましいものであると考えられます。また、出願手続きの短縮化および簡易特許の保護対象を広げる法改正は、出願件数の増加に繋げることが狙いだと思われます。一方で、特許権の効力の例外規定、第二医薬用途クレームの特許保護対象からの除外および強制実施権制度の拡大など、製薬業界の出願人にはあまり望ましくない改正も含まれているといえるでしょう。

本記事は、Journal of Chartered Intellectual Property Attorneysの2016年10月号に掲載中の、Spruson & Ferguson特許事務所のAdolf PanggabeanおよびJonathan Lohによる記事を翻訳したものです。