AL-WADDAN V MAN 事件:履行妨害行為に依拠す ることはできない

仲裁開始の前提条件に関する請負者側の不履行が発注者の 行為に起因している場合、発注者は、これに依拠することができ ません。イングランド・ウェールズ高等法院が 2014 年 12 月

12 日に下した判決 1(2015 年 5 月まで発表されず)では、この

ような判断が示されました。

  • エンジニヤの決定は仲裁の前提条件
  • 履行妨害の原則(prevention principle)の適用
  • 裁判所による   FIDIC   ガイドへの言及
  • 結語
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エンジニヤの決定は仲裁の前提条件

本件は中東のホテル工事に関するものであり、その契約は FIDIC レッドブック第 4 版(1992 年版)に基づいていました。この契約約款の規定によれば、発注者と請負者と の間の紛争は、エンジニヤに付託されるものであり、当該エンジニヤは、付託を受けて から 84 日以内に決定を下さなければならないとされています。当事者のいずれかに おいてエンジニヤの決定に不服がある場合、または、エンジニヤが 84 日の期間内に 決定を下さなかった場合、発注者または請負者は、仲裁の通知を送達することができ ます。したがって、かかる決定(またはそれを下さないこと)は、仲裁開始の前提条件と なります。

本件において請負者は、仮証明書に基づく自らの権利について(エンジニヤに)決定 を求めたところ、エンジニヤの方からは、発注者とのサービス契約が満了したため、 もはやエンジニヤではなくなった旨を告げられるという問題に直面しました。

請負者は発注者に対し、エンジニヤを再雇用するか、または別のエンジニヤを選任することに合意する旨を確認するよう書面で要請しま したが、さもなければこの書簡は、仲裁の通知として扱われるべきものとされていました。発注者は、当該書簡に対して実質的な回答をしな かったため、請負者は仲裁手続を開始しました。これに対し発注者は、1996 年イングランド仲裁法第 67 条に基づき、仲裁判断を下す 仲裁人の管轄権について不服を申し立てました。

履行妨害の原則(prevention principle)の適用

発注者の申立てにおける主張としては、(i)エンジニヤは存在しており、したがって、 決定通知が必要であったが、エンジニヤからの唯一の書簡は、明らかに決定通知では なかった、および(ii)決定が下されない場合、仲裁手続を開始するために請負者がしなけ ればならなかったことは、合意された期間(すなわち、84 日間)の経過を待つことだけで あり、エンジニヤの決定通知を取得できないことによって、いかなる「履行妨害」または 妨げ」も引き起こされていない、という二通りの議論が展開されていました。

第一の主張について裁判所は、エンジニヤが自分自身に割り当てられた契約上の役割(すなわち、決定を下すこと)を遂行しない旨を明確かつ確実に述べたのであれば、 両当事者は、契約上の要件がもはや拘束力を持たないものとして、確信を持って(仲裁 手続を)進めることができると結論付けました。そのような状況において、両当事者は、 エンジニヤの決定がもはや仲裁開始の前提条件ではないことを受け入れるであろうし、 そうでなければ他のエンジニヤの雇用を試みることもできたのです。

もう一方の主張について裁判所は、長きにわたって定着している判例を拠り所に、履行 妨害の原則(当事者は、自らが履行を妨げたり阻んだりしている場合には、他方当事者に よる条件の不履行に付け込むことができないという原則)を支持する姿勢を示しました。 本件において発注者は、エンジニヤの再雇用または新規選任を怠り、エンジニヤの方は、 84 日以内にもその後も、決定通知を全く行わない意思を明確に示していました。エンジニ ヤは事実上、自らの職務と責任から「手を引いていた」ということになります。発注者には エンジニヤを雇用する義務があり、発注者自身がこれを怠ったことを理由として仲裁の 通知を出すことを妨げることはできないのです。したがって、請負者としては、仲裁手続を 開始する上で 84 日間が経過するのを待つ必要はありませんでした。

このような状況において、発注者はもはや仲裁手続に反対することはできません。

裁判所による FIDIC ガイドへの言及

裁判所は、判決の全文を通して、レッドブック第 4 版用の FIDIC ガイドの内容について 幾分詳細に言及しており、同ガイドが契約書ではないことを認めながらも、裁判所の言う ところでは、「こうした契約書がいかに機能するかについて、裁判所がその背景を理解する 上で役に立つ」可能性があるとしました。裁判所は、エンジニヤが誰であるかが請負者の 入札における計算の要素であった点について特に言及し、発注者が請負者の同意なし にエンジニヤを変更することができなかったのは、これが理由であるとしました。

結語

この判決は、二つの理由により、とりわけ注目に値します。第一に、本判決では、履行 妨害の原則が(建設契約の黙示的条件として裁判所がためらうことなく認めている)協力 義務の一側面として捉えられているということです。第二に、この判決は、FIDIC ガイドが 契約書ではないことを認めながらも、標準約款を解釈し理解する上で、裁判所がこの ガイドを利用した初めてのケースだと思われる点です。したがって、FIDIC 約款の利用者 は、特定の規定の解釈について当事者間に意見の相違が発生した場合にはとりわけ、FIDIC ガイドに精通している必要があります.