2016年1月1日から、わが国の通常の労働時間が「2週間で84時間」から「1週間で40時間」に短縮されました。労働部(労働省)職業安全衛生署は、この法定労働時間の短縮に合わせて、同年1月5日に「労働による脳血管及び心臓の疾患(外傷によるものを除く)認定の参考手引き」(以下、「参考手引き」と言います)を改訂しました。この改訂の重要な点は、労働による疾患に関連する「長期過重労働」(過労を認定するための要件の一つ)の定義が変更されたことです。以下では、重要な改訂内容について説明します。

一、発病前1ヶ月間の時間外労働時間数が「92時間」から「100時間」に改訂されました。(時間外労働時間が100時間を超過した場合、時間外労働による労働の負担と発病の間の関連性が極めて強いということになります。)

二、発病前2ヶ月間ないし6ヶ月間の月平均時間外労働時間数が、「72時間」から「80時間」に改訂されました。(月平均時間外労働時間が80時間を超過した場合、時間外労働による労働の負担と発病の間の関連性が極めて強いことになります。)

三、発病日前1ヶ月間ないし6ヶ月間の月平均時間外労働時間が「37時間」から「45時間」に改訂されました。(労働と発病の関連性については、月平均時間外労働時間数が多いほど大きくなりますが、個別の案件の状況を考慮して評価することになります。)

以上の時間数の改訂から明らかなとおり、労働による疾患の認定に関する「時間外労働時間数」及び「月平均時間外労働時間数」が一律「8時間」増加しています。これは、労働部職業安全衛生署が「過労職業災害の認定の総時間数は変わらない」という考え方に立った上で、通常の労働時間が4週間で8時間減少したが故に、この8時間減少した分を過労認定の際の時間外労働時間に追加し、これによって現在医学上認められている「過労認定総時間数」を維持しています。

なお、司法実務上も、労働者の過労死と労働時間の間に相当因果関係があるかを判断する際に、この参考手引きが判断基準として用いられています。台湾高等裁判所台中支部の2015年の民事判決(104年度労上字第14号)は明示的にこれを用いています。「朱○○が101年(すなわち2012年)8月28日までの6ヶ月間常に夜勤であり睡眠時間が奪われ、また毎日の実際の労働時間は10時間を超え、月平均時間外労働時間数は72時間から84時間であり、これは朱○○の出勤資料から認められる、、、従って、朱○○の時間外労働時間数に鑑みると、その長期過労の状況は『労働による脳血管及び心臓の疾患(外傷によるものを除く)認定の参考手引き』

第3.3.1.1、3.3.1.2の長期過重労働負荷の基準を満たしている。よって、その死亡は、労働との間に明らかに相当因果関係があり、労働によって生じた疾患によるものである。従って、上訴人朱○○の死亡が過労による労働疾患となることは、証拠により明らかであるといえる。」

以上のように、わが国の法定労働時間の短縮は「長期過重労働」の時間数の認定基準に影響を与えたものの、過労による労働災害の認定の総時間数には影響を与えていません。また、わが国の司法実務の見解に鑑みると、労働者が法定労働時間外に業務を行った場合、雇用者は、残業手当を支払う義務を負うことに加えて、労働者が時間外労働をしたために免疫力が低下し労働疾患に罹患するリスクが高くなる可能性があり、これによって生じた損害を賠償する責任を負う可能性があります。したがって、雇用者が労働者に対して時間外労働を要求する場合、労働者の身体の状況を考慮し、また時間外労働の必要性を慎重に考慮すべきであり、これによって労働者と雇用者の双方の利益となる状況が生まれるといえます。