イングランド最高裁判所は、先般の Cavendish Square Holding BV v Talal El Makdessi 事件 および ParkingEye Limited v Beavis 事件([2015] UKSC 67)判決において、イングランド法上どのような場合に契約規定が違約 罰的であると判断され、よって執行不能とされるかについて新たな基準を導入 しました。同事件判決は、適切な助言を得た、交渉上の立場が同等である商業 的当事者間で、自由な交渉をした結果成立した合意については、これに干渉 することなく執行すべきであるとするイングランド法の原則を支持するものです。

裁判所の判決は、違反をしていない当事者に補償することを目的とする条項 執行可能)と、契約違反を抑止することを目的とする条項(執行不能)とを区別 する伝統的なアプローチを退けました。違約罰条項であるかどうかの新たな 判断基準は、相手方当事者が契約上負う義務を強制することよって違反をして いない当事者が得る正当な利益に照らして、違反に対する契約上の救済措置 が過度に不釣り合いかどうかというものです。

国際建設契約の大部分が遅延に対する損害賠償予定額に関する規定を盛り 込んでいることから、これらの判決は建設業界にとって特に興味深い判決で あると言えるでしょう。

背景となる紛争および控訴院の判決

イングランド最高裁判所は、契約条項が違約罰的であるかが争点となった二つの上告事件を審理しました。

Makdessi 事件は、株式売買契約および株主間契約の規定をめぐる争いでした。契約には、売主が一定の競業禁止規定に違反した場合 は、本来有する繰延対価の支払いを受ける権利を失い、残余株式をのれんの価値を算入しない価格で売却しなければならないと定めら れていました。控訴院は、かかる規定は目的が補償ではなく抑止にあるため違約罰的であると判断しました。

ParkingEye 事件は Beavis 氏が、駐車場で無料駐車が認められていた 2 時間の時間 制限を超えて駐車をしたために請求された 85 ポンドの支払いをめぐるものでした。これに ついて控訴院は、かかる金額の請求は違約罰ではないと判断しました。

最高裁の判決

最高裁は、いずれの事件においても問題となった契約規定は違約罰的ではないと認定し、

Makdessi 事件では上告を認め、ParkingEye 事件では上告を退けました。

Makdessi 事件で裁判所は、問題の契約規定は、事業ののれんを守るために競争禁止 規定を強制するという買主の正当な利益を保護するものであると考えました。それは、 売主を罰することとは一切関係がなく、買主が事業を買収することによって商業的目的を 達成することのみに関係するものであり、そうした利益の価値をどのように契約上反映 すべきかについて最良の判断を下せるのは当事者である、と考えたのです。

これに対し、ParkingEye 事件で裁判所は、駐車場経営者が請求した支払いは、駐車場 の効率的な利用を管理し、経費を賄い利益を上げるための収益の流れを確保するという 駐車場経営者の正当な利益に鑑みれば正当であると考えました。請求された金額は、 かかる利益に対して不釣合いではなく、よって違約罰的ではないと判断したのです。

損害賠償予定額が罰則であるかを判断する際のより柔軟なアプローチ

これらの判決は、契約の条項が、単に損失に関する純粋な見積もりではない、または、 補償よりも抑止を目的としているという理由から罰則的とみなされるとは限らないことを 意味します。このように、正当な利益を重視する新たな基準により、柔軟性は大幅に高まり ましたが、度を超えて適用すべきではないでしょう。この点裁判所は、単純明快な損害 賠償条項においては、違反をしていない当事者の利益が違反に対する補償を上回ると 認められることは稀であるから、当該条項の有効性については通常は従来の判断基準で 足りるという見解を示しました。

この新しい基準は、待ち望まれていた柔軟性をもたらし、特に ParkingEye 事件のように、 違反をしていない当事者が、違反の結果明白な金銭的損失を被らない場合など、今後は これまでのように条項が違約罰的であるとして無効と判断されるケースが減ることを意味 すると思われます。

建設業界においては、政府機関が損害賠償予定額を設定する場合がありますが、政府 機関は必ずしも商業的当事者と同じ形態で金銭的損失を被る訳ではありません。また、 政府機関は、特定のサービスに関する公益性(または少なくともその一部)を反映させる ために、損害賠償予定額を設定する場合もあるでしょう。裁判所が導入した新しい基準は、 このような状況で、より実効性が高いスタート地点となると思われます。

新ルールの適用範囲

裁判所は、オーストラリアの裁判所がしたように、契約違反以外の事由により発動する契約規定についてもこのルールの適用範囲を広げ るべきかについて検討しましたが、範囲の拡大はしませんでした。このルールは契約上の一次的義務には適用されず、コモン・ロー上の 損害賠償ではない契約上の代替手段として設けられた二次的義務に対してのみ適用されるとしたのです。

したがって、例えば、契約違反があった場合に発生する損害賠償予定金の請求権について定めるのではなく、債務履行を条件とする 支払義務について定めるなど、契約を慎重に作成することにより、このルールの適用を完全に回避することも可能かもしれません。ただし、 裁判所は、契約規定の分類は、違約罰に関するルールの適用という目的においては、単なる形式ではなく実質的内容に左右されることを 強調しました。

例えば Makdessi 事件では、裁判所が上告を認めたのは、問題となった契約規定が二次的義務というよりも一次的義務に関わるもので あり、違約罰を禁じるルールは適用されないと判断したためでした。契約規定は、売主側による契約違反があった場合に発動するもので したが、その実態は価格調整条項であったため、損害賠償の代替手段としての契約上の措置とは言えないと判断されたのです。

他方、このように形式よりも実質を重視するアプローチは、このルールの適用を回避するために契約規定を作成しようとする際には厄介 かもしれません。裁判所は、価格調整条項が、実質的には売主による契約違反に対する制裁である場合には、対価を算定するための 計算式の一部として規定されていても何ら差はないと指摘しています。したがって、当事者がルールの適用を完全に回避したいのであれ ば、契約規定が実質的に契約違反に基づく損害賠償に対する契約上の代替手段となることを確実に避ける必要があります。

さらに、同判決は、このルールが、契約違反に基づく金銭的支払義務を規定する契約条項のみに適用されるのではないことを明確に示し ています。このルールは、無償または適正価格を下回る対価で資産を譲渡する義務や、おそらくは、当事者が支払い済みまたは未払い の分割支払いを回収することを妨げる契約条項にも適用されると思われます。もっとも、上記した最後の点、および違約罰と権利喪失(forfeiture)との相関関係は、裁判官の間でも議論となり、意見が分かれた点でした。

いずれにせよ、損害賠償予定額の代替手段となる、より独創的な措置を定めることによってこのルールを免れることはできないと想定した 方が安全と言えるでしょう。契約条項が実質的には契約違反発生を事由として生じる二次的義務に関するものである場合は、違約罰に 関する新しいルールに抵触することを確実に回避するために、注意深く検討することが推奨されます。